少額訴訟                                 日本大学法学部専任講師 松嶋隆弘
 新民事訴訟法の少額訴訟についての解説を、日本大学広報に書きましたので、それを載せます。


【法律相談】

 昨年四月から賃貸借住宅の敷金返還にまつわるトラブルなど身近に起こる問題をより簡単な手続きで解決してくれる「少額訴訟」という裁判制度ができたと聞きました。どんなときに利用したらよいのか、注意すべき点などを教えてください。(日野市・K)


【解説】

一.少額訴訟とは

 旧民事訴訟法は、訴額が比較的低い事件を簡易な手続で迅速に解決できるようにするという目的から、簡易裁判所の訴訟手続に関する特則を設けていた。しかし、これは地裁と同じ通常の訴訟手続の基本的運用を前提とし、いわばそのミニ版にとどまるため、右目的達成にとって、十分とはいえなかった。新民事訴訟法は、右簡易裁判所の訴訟手続の特則をほとんどそのまま維持しつつ、新たに、一般市民が利用しやすい特別の手続を設けた。それが少額訴訟である。その趣旨は、日常の社会生活から生ずる少額の金銭的トラブルの訴訟事件の解決を市民の手に合うものとすること、すなわち訴額に見合った経済的負担で、迅速かつ効果的な解決を裁判所に求めることができるようにすることにある。

 「少額訴訟」は、前記のとおり、少額の紛争について、紛争額に見合った時間と費用と労力で解決を図ることが出来るように、手続を出来るかぎり簡易迅速にしたものである。少額訴訟の訴訟手続においては、原則として、裁判所に出頭するのは一日だけですむように、一回の口頭弁論期日だけで審理を完了し、判決の言い渡しは、審理の終了後直ちに行う。


二.少額訴訟を利用するにあたって注意すべき点

1.訴額の制限

 少額訴訟が利用できるためには、いくつかの制限がある。その一つは、@.訴額三〇万円以下の、A.金銭支払請求に限るという点である(三六八条一項本文)。@.訴額を三〇万円に制約したのは、少額訴訟手続を簡易裁判所における通常の手続と明確に区別し、手続・裁判の両面でかなり思い切った処理を実現するためには、この手続の対象となる事件の訴額の上限をあまり高くしないほうがよいからである。また、A.金銭請求事件に限定している点は、訴額が三〇万円以下の事件でも、物の引渡し請求や金銭債務の不存在確認請求は、複雑困難で、この手続による審理に適さないものが多いからである。
 したがって、少額訴訟が実際上利用できるのは、敷金返還請求などのトラブルにおいてであろう。

2.利用回数の制限

 同一の原告が同一の簡裁で同一の年に一〇回を超えて少額訴訟による審理・裁判を求めることはできない(三六八条一項但書、新規則二二三条)。すべての市民に平等に少額訴訟のメリットを享受させることができるようにするために、一人あたりの利用できる回数を制限しているのである。

3.不服申立の制限

 少額訴訟は一審限りで、終局判決に対する控訴はできない(三七七条)。その判決をした同じ裁判所に異議の申立をすることができるだけである。少額訴訟はあくまで一審限りなのである。