商法上の差止仮処分の実効性について(三・完)                          
松嶋隆弘


一.はじめに
二.昭和六一年改正試案九.2にいたる経緯
三.差止仮処分違反の行為の効力(以上六二巻三号)
四.差止請求権の執行(六三巻二号)
五.諸外国の対応
  1.はじめに
  2.取締役の違法行為の差止
  3.新株発行の差止
  4.検討
六.昭和六一年改正試案九.2の当否
  1.はじめに
  2.立法的規制の必要性
  3.立法的規制のあり方
  4.過料と刑事罰の優劣
七.結びに代えて(以上本号)





五.諸外国の対応


1.はじめに
 ここで、差止仮処分の実効性の確保につき立法論的検討をする前に、諸外国においていかなる法制がとられているかについて検討する。検討に際しては、取締役の違法行為差止請求権の場合と新株発行差止請求権の場合とを分けて考える必要があろう。確かに前述のごとく、両者とも英米法のインジャンクションを継受したという共通の沿革をもつし、従来から株主の権利の強化の方法として一括して論じられてきた。しかし、わが国の会社法が、昭和二五年改正により、大陸法に倣って作られた商法典に英米法型商法を「接ぎ木」したという沿革に照らせば、その「接ぎ木」のやり方の違いにより、両者は別に検討されてしかるべきである。
 すなわち、取締役の違法行為差止請求権は、事後の是正手段である代表訴訟とともに昭和二五年改正において英米法を継受して規定されたものであり、かかる株主の責任追及はそれまでの商法が予定していなかったものである。これに対し、新株発行差止請求権は、従来からあった増資無効制度の上に英米法のインジャンクションを接ぎ木したものである。確かに新株発行無効の訴(商法二八〇条ノ一五)も新株発行差止請求権と同じに昭和二五年改正で新たに規定されたものではあるが、同年改正における授権資本制度の採用にあわせて、昭和一三年改正でできた増資無効(昭和二五年改正前商法三七一条)をアレンジしたものにすぎず*1、新株発行無効の訴は増資無効の訴と大枠において変化はないと考えてよいであろう。そして増資制度はきわめて大陸法的な制度である。そこで、本来ならば新株発行差止請求権に関しては、新株発行法制についての大陸法との比較も必要になろう。そのような本格的な比較法的検討は、筆者の能力を超えるため、他日を期したい。本稿では、取締役の違法行為差止については、アメリカ法のインジャンクションとの比較を、新株発行については、新株発行の瑕疵を争う制度につき、アメリカ法・ドイツ法との比較をそれぞれ若干行うことにする。


2.取締役の違法行為の差止
 アメリカ法上、会社・株主間には、会社はその資産を定められた目的のために適正に運用すべき契約的関係が存在するものと考えられている*2。従って取締役その他の役員が会社の名において会社の目的の範囲外の行為その他法令又は定款違反の行為をしようとする場合には、各株主は右契約に基づく利益を不当に害される危険にさらされる。そこでこのような場合、株主は衡平法上の救済方法としてインジャンクションによる保護を受けうるとされている*3。ここでインジャンクションについて簡単にみてみる*4。
 インジャンクションとは、衡平法上の救済方法で、被告に一定の行為を為すことを禁じたり、既に生じた違法行為の排除のために一定の作為を命じる裁判所の命令をさす*5。このうち、不作為を命じるものをprohibitory injunction、作為を命じるものをmandatory injunctionという*6。
 インジャンクションについては、連邦と州のそれぞれが独自に要件などについて法律・規則で定めている。インジャンクションは、さらにインジャンクションを出すための手続の違いにより、いくつかに分かれている。そのうち、本稿における関心は、日本法における仮処分に相当すると思われる、本案について完全な審理をする前に出されるinterlocutory injunctionである。これにつき、連邦民事訴訟法規則は、interlocutory injunctionとして相手方当事者に予め通知(notice)をしなければこれを発することができないpreliminary injunction(予備的インジャンクション 六五条a項)と、そのような通知が不要なtemporary restraining order(暫定的制止命令、 b項)の二つを規定している。preliminary injunctionは、緊急性がある場合の仮の救済とされており、原告に保証金を積ませ、被告に通知を与えて、インフォーマルな審尋(hearing)の後に発される*7。他方、temporary restraining orderはそれよりも救済の必要性が高い場合、相手方に審尋していては回復しがたい被害・損失・損害が生じるような極めて緊急の場合における救済処分である。被告の審尋なくして発令されるが、そのために有効期間も一〇日間以内であるのが通常であり、発令後被告は相手方は二日の期間内に、右命令の取消・変更のための審尋をするように裁判所に申し立てることができる*8。両者を比較すると、前者は、相手方に対する通知と審尋がなされた後で出され、通常は訴訟の最終的解決までの暫定的な措置を定めるものであり、後者は、相手方に対する通知もなく一方的な申立に基いて出される緊急的性格のものである。これらのうち、わが国の差止仮処分に近いのはpreliminary injunctionの方であるといえるだろう。
 そして、インジャンクションの実効性は裁判所侮辱(contempt of court)により担保される*9。インジャンクションはエクイティ上の救済方法であるから、equity act in personamという法格言どおり*10、対人的に働き、その執行(enforcement)は裁判所侮辱を構成する。つまり、preliminary injunctionの違反は、裁判所侮辱の制裁をもたらす。
 裁判所侮辱は、刑事侮辱(criminal contempt)*11と民事侮辱(civil contempt)とに分けることができるが、インジャンクションの執行のための裁判所侮辱は、両者が存在する。民事侮辱の場合は、命令を得た当事者やその訴訟代理人等から、命令に違反した当事者、その訴訟代理人、当事者たる法人の役員に対して行われる訴訟手続により、インジャンクションの訴訟手続の一部として申請(motion)をもって行われるものであり、これにより、拘禁(inprisonment)・罰金(fine)を強制することができる。ただ、右処分はあくまでも相手方を命令に服せしむるためのものだから、拘禁は相手方が命令に服するまでの不定期間、罰金は侮辱行為により生じた損害となる。そして罰金は当事者に対し支払われる。他方、刑事侮辱はこれとは異なり、合衆国により提起される独立の訴訟による。処罰は拘禁・罰金であるが、民事侮辱の場合と異なり刑罰であるから、拘禁は定期刑であり、罰金は連邦等に対して支払われる。
 このように民事侮辱と刑事侮辱とでは手続が異なる。両者の区別の基準については、簡単ではないが、制裁を課す際の手続的保障を決定するという点で重要であり、さまざまな判例の変遷がある*12。
 この点につき、従来は制裁の性質が重視されていたが、近時の判例*13は裁判所の命令の性質についても考慮を払っているようである。裁判所侮辱に関する民事と刑事の区別につき制裁の性質を基準とする判例に対しては、侮辱行為について審理をしなければ、制裁を決めることができないにもかかわらず、制裁の性質・目的が決まらないと裁判所侮辱の審理で用いる手続が決まらないという問題点も指摘されているが*14、いずれにせよ区別の基準として、先ほどのべた制裁の性質が考慮されることはたしかなようである。
 このようにアメリカ法においては、injunctionに対して、その違反に対するサンクションが整備されており、履行の強制方法が確保されている*15(なお、このように裁判所の差止命令の違反につき制裁を課す例はアメリカ法(及びイギリス法)だけではない。強制執行についてであればドイツ法、オーストリア法*16、フランス法*17にも存在する。例えば、ドイツ民事訴訟法(ZPO)八九〇条は、差止違反に対し、秩序金・秩序拘禁を科す旨規定する*18。)。このようなインジャンクションによる実効性の確保は、本稿で検討した差止仮処分を執行する方法とほぼ同様のアプローチであると考えてよいであろう。


3.新株発行の差止
 次に新株発行についてみてみる。まず新株発行差止請求権の母法であるアメリカ法について簡単に新株発行法制をスケッチする。アメリカ法においては、州会社法上、定款に定められた授権資本の枠内において取締役会が新株発行権限を有するのが原則である。コモン・ロー上、株主は新株引受権を有するものの、多くの州においては制定法により、定款に新株引受権を与える旨の記載がない限り、株主は新株引受権を有しないとされているからである*19。
 ただわが国と異なり、新株発行の瑕疵を争う制度を制定法が定めていない。具体的な措置は裁判所に委ねられる。例えば、事前の手段であれば差止、事後の手段であれば発行された株式の消却(cancellation)や会社への返還、新株発行が無効であることの宣言(declaration)などである*20。このうち本稿で問題とするのは差止であるが、前述のごとく、制定法が救済について定めていない以上、取締役の違法行為差止の場合と同様、衡平法的救済としてインジャンクションによることになる。その場合のインジャンクションの実効性の確保については、2.に述べたのと同様である。
 ただ、前述のとおり、新株発行差止請求権は、大陸法的な制度の上に「接ぎ木」したものであるため、事後的是正手段である新株発行無効の訴との関連についても考慮をしなければならず、新株発行無効の訴の由来につき検討する必要がある。ここで注目すべきことは新株発行無効が、イギリス・アメリカ・ドイツ・フランス等の諸国においても見られない「特別な制度」であるということである*21。例えば、ドイツ法についてみても、増資の効力を争う制度はそもそも存在しない。ドイツ株式法の下では、増資は株主総会でなされるのが原則であり、認可資本を利用する場合でも、総会決議による取締役会への授権が必要である(ドイツ株式法一八二条、二〇二条)*22。従って株主の救済方法としては、右増資に対する株主の異議、具体的にいえば瑕疵ある総会決議の無効・取消によることになる。ドイツ株式法二五五条は、「(1)出資による資本増加に関する決議は、第二四三条により取消されることができる。(2)取消は、株主の引受権が全部または一部排除されているときは、増加決議により生ずる発行価額またはそれ以下で新株が発行されるべきでない最低価額が、不当に低いことをも理由とされることができる。引取のために新株を株主に提供する義務を付して第三者により新株が引き受けられるべきときは、これは適用されない」と規定する。これにより、違法な増資に対しては、当該増資を決議した、あるいは取締役に増資を授権した、株主総会決議の無効・取消の訴を提起することができるのである*23。


4.検討
 以上の検討から、まず、アメリカ法においては、取締役の違法行為の差止・新株発行の差止は、いずれもインジャンクションによることがわかった。このようなアプローチは、本稿でいう差止仮処分の執行の方法とほぼ同じであることもすでに述べた。ただ、アプローチとしては同じであっても、実際の実効性としては大きく異なる。インジャンクションがその違反に対して裁判所侮辱(民事侮辱のみならず刑事侮辱までも)といった強い制裁を伴うこと、ドイツ法・オーストリア法が裁判所の命令違反に対し刑罰をもって臨んでいることに比較してみれば、わが国の間接強制は、四.*24でみたとおり、いくら解釈により実効性がある程度期待できるとしても、いかにも無力であるといわなければならない*25。
 さらに、新株発行無効については、当該決議の効力を争うことは別として、増資自体の効力を争う制度はわが国独特の制度であることが分かった*26。このことは、差止仮処分の実効性をはかる方法として行為の効力を否定するアプローチが、新株発行無効の訴の法定という事情と関連することを窺わせる。いずれにせよ当該新株の効力を否定するアプローチが比較法的裏付けを持たないことは確かなようである。新株発行無効の訴えの立法経緯等は本稿の直接の関心ではなく、いずれ別稿を用意したい。
 以上の検討を前提に、次に立法論的考察を行いたい。






*1大隅健一郎=大森忠夫『逐条改正会社法解説』(昭和二六年)三九四頁以下は、昭和二五年改正が「旧法上認められていた増資無効の訴の制度に準じて新株発行無効の訴の制度をみとめ」たとする。
*2大森忠夫「株主の地位の強化と会社法」京都大学商法研究会『英米会社法研究』(昭和二五年)一九二頁、ROBERT W.HAMILTON,THE LAW OF CORPORATIONS IN A NUTSHELL 5(4th ed,1996)
*3HENRY WINTHROP BALLANTINE,BALLANTINE ON CORPORATIONS 257(Rev ed.1946)、並木俊守=並木和夫『現代アメリカ会社法』(昭和六二年)四九頁
*4インジャンクションについての文献として次のものがある。
JOHN F. DOBBYN,INJUNCTIONS IN A NUTSHELL(1974)、石川正「アメリカにおける民事保全」中野貞一郎=原井龍一郎=鈴木正裕編集『民事保全法講座第一巻』(平成八年)一七三頁、島本英夫「株主の差止請求権−米国法を参酌して−」同志社法学九号(昭和二六年)三二頁、田中和夫「英法における差止命令(injunction)」法政研究二巻二号(昭和七年)三頁、同「英米法におけるinjunction」吉川還暦記念『保全処分の体系上巻』(昭和三九)七六頁、塚本重頼「英法における差止命令と裁判所の裁量権」吉川追悼『手続法の理論と実践』(昭和五五年)二七頁、柳川俊一「英米法における仮処分(injunction)の研究」司法研究報告書九輯二号(昭和三一年)、同「インジャンクションと仮処分」判タ五七号(昭和三一年)二八頁、同「アメリカにおける仮処分」村松還暦記念『仮処分の研究上巻』(昭和四〇年)六八頁
*5田中英夫編集代表・前掲『英米法辞典』四四八頁
*6つまり、インジャンクションは、不作為命令に限られないわけである。この点、インジャンクションを継受したわが国における取締役の違法行為差止請求権、新株発行差止請求権が不作為請求権であることと違いがある。
*7小林秀之『新版・アメリカ民事訴訟法』(平成八年)三一九頁
*8小林・前掲書三一九頁、石川・前掲論文一七七頁以下。
*9裁判所侮辱についての文献として次のものがある。
伊藤正己『裁判所侮辱の諸問題』(昭和二四年)、住吉博「強制執行の方法としてのcontempt」法学新報八三巻七・八・九号(昭和五二年)二四九頁(ただしイギリス法についてのもの)、高柳賢三「コンテンプト・オヴ・コオト」法曹時報四巻八号(昭和二七年)一頁、時国康夫「アメリカ連邦裁判所における差止命令違反の制裁」村松還暦記念『仮処分の研究下巻』(昭和四一年)三六五頁、平井三次「英法に於ける裁判所侮辱の史的背景」『加藤先生還暦記念論文集』(昭和七年)八二五頁
*10田中・前掲『英米法辞典』三〇三頁
*11刑事侮辱についてはNote, Criminal Contempt: Violations of Injunctions in The Federal Courts,32IND.L.J.,514,(1957).
*12紙谷雅子「裁判所侮辱における刑事侮辱と民事侮辱との区別」ジュリスト一〇七七号(以下「紙谷@」とする。)(平成七年)一三九頁、同・判批・アメリカ法(以下「紙谷A」とする。)(一九九六−T)一八二頁
*13International Union,United Minne Workers v. Bagwel,114S.Ct. 2552(1994).この判決の評釈として、紙谷@・一三九頁、紙谷A一八二頁
*14紙谷@・一四二頁、紙谷A・一八八頁は「キャッチ22」的状況と表現する。。
*15田中誠二『会社法研究第二巻』(昭和五六年)は、アメリカ法ではインジャンクションに違反した場合は裁判所侮辱として「監禁または巨額の罰金の制裁が定められていて、その違反はほとんど生じない」と指摘する。
*16オーストリア執行法は不代替的行為及び不作為・受忍義務の強制につき罰金及び勾留を定めている(§§354-355 EO)。法文については、KODEX DES OSTERREICHISCHEN RECHTS, ZIVIL-GERICHTLICHES VERFAHREN STAND 1.9.1993 6.Aufl.P.81−82によった。翻訳については、法務大臣官房司法法制調査部編「オーストリア強制執行法」法務資料四二一号(昭和五〇年)一九七、一九八頁。
*17フランス法のアストラント(罰金強制)については、次の文献がある。
奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(平成四年)一〇一頁以下、萩大輔「ケーゼルのアストラント(一)(二)」鹿児島大学社会科学報告一一号(昭和三九年)一頁・法学論集一号(昭和四〇年)一五三頁、同「仏法におけるアストラントについて(一)〜(三)」法学論集四号(昭和四三年)三九頁、五巻一号(昭和四四年)一九頁、六巻二号(昭和四五年)一頁、山本桂一「フランス法における債務のastreinte(罰金強制)について」我妻還暦記念『損害賠償責任の研究下巻』(昭和四〇年)一一九頁、同「フランス法における債務のastreinteについて」比較法研究二七号(昭和四一年)七四頁、同「アストラント(astreinte)罰金強制の合法性」別冊ジュリスト二五号『フランス判例百選』(昭和四四年)一〇三頁、若林安雄「強制執行法案要綱案(第二次試案)第三〇七(間接強制)について(二)」近大法学二一巻二号(昭和四九年)六七頁
*18法文については、STEIN/JONAS,KOMMENTAR ZUR ZIVILPROZESSORDNUNG,Bd.7 Teilbd.1,21.Aufl.163(1995)によった。翻訳については、法務大臣官房司法法制調査部編『ドイツ強制執行法』(昭和五一年)七二頁、渡辺森児「ドイツ民事訴訟法における不作為執行制度について」慶應義塾大学大学院法学研究科論文集第三八号(平成九年)六六頁(ただし前者は一九七四年の改正以前のもの。渡辺・前掲八一頁)。
*19CARY & EISENBERG ,CASES & MATERIALS ON CORPORATIONS 133(7th ed. 1995)
*20洲崎博史「不公正な新株発行とその規制(一)」民商法雑誌九四巻五号(昭和六一年)六頁
*21菱田政宏「新株発行と瑕疵」石井追悼『商事法の諸問題』(昭和四九年)四〇二頁、清水巌「新株の発行」『判例演習講座商法T』(昭和四八年)二二四頁
*22ドイツ株式法の法文については、Beck−Texte,Aktiengesetz・GmbH−gesetz.28.Aufl.,Beck−Texte im dtv 5010,1997によった。
*23慶応義塾大学法学研究会叢書22『西独株式法』(昭和四四年)四〇一頁、洲崎・前掲論文(一)二六頁、橡川泰史「新株発行に際する既存株主の救済方法」静岡大学法経研究三九巻四号(平成三年)四頁以下
*24本誌六三巻二号九三頁以下参照
*25青山・前掲判批一三八頁
*26菱田・前掲論文四〇二頁