[論説] 公示義務違反と新株発行の無効原因             
日本大学法学部専任講師 松嶋隆弘


一.はじめに
二.本条違反の新株発行の効力に関する学説と判例
 1.学説
 2.これまでの判例の検討
 3.平成九年・一〇年判決
三.公示義務違反の新株発行の効力
 1.判例の評価
 2.検討
 3.公示制度の問題点
四.結びに代えて




一.はじめに

 新株発行の無効原因について、商法二八〇条ノ一五は何も規定しておらず、すべて解釈に委ねられている。したがって、何が無効事由かについては解釈により決しなければならない。
 この点に関し、近時最高裁判所は著しく不公正な方法によりなされた新株発行の効力について有効と判示した(最高裁平成6年7月14日判決(判時1512号178頁、判タ859号118頁、金判956号3頁、以下、「平成六年判決」という*1。)。この平成六年判決は、無効事由を極度に狭く捉えており、それにより新株発行無効の訴えは株主救済の手段としては事実上機能しがたくなってしまった。このような理解は、株主の権利の実効性という点からは疑問であり、筆者は以前別稿において右判決に反対する旨の意見を述べたことがある*2。
 いずれにせよ、右平成六年判決の登場により、株主の救済は、実務上、事前の手段である新株発行差止請求権、なかんずく仮処分によりはからなければならない。この点、近時、最高裁判所は、新株発行差止仮処分違反の新株発行は無効であると判示している(最高裁平成五年一二月一六日判決(民集47巻10号5423頁、以下、「平成五年判決」という*3。))。これにより、差止仮処分の実効性はきわめて強いものとなった。筆者は、差止仮処分の実効性に関する別稿において、平成五年判決の結論を支持する意見を述べた*4。
 ところで、株主が新株発行を差し止めるためには、あらかじめ新株が発行されることについて知っておく必要がある。そこで、商法は、新株発行がなされようとしていることについて株主に開示し、株主が新株発行差止請求(商法二八〇条ノ一〇)をなすべきか判断できるようにするため、新株を発行する会社は、払込期日の二週間前に新株の額面無額面の別、種類、数、発行価額、払込期日及び募集の方法について、公告か株主への通知をしなければならないと規定している(商法二八〇条ノ三ノ二(以下、「本条」という。))。
 このように、公示義務は、株主の権利の実効性確保のためにきわめて重要である。会社が公示義務規定に違反することにより、株主が新株発行を差し止めることができず、差止仮処分を申し立てなかった以上、新株発行は事後的に無効とできないとなれば、株主には一切の救済が封じられてしまうからである。
  この点につき、近時立て続けに公示義務に違反する新株発行の効力を原則として無効とする最高裁判所の判決が現れた。最高裁平成九年一月二八日判決(民集五一巻一号七一頁、以下、「平成九年判決」という*5。)、 最高裁平成一〇年七月一七日判決(判時一六五三号一四三頁、判タ九八五号一三四頁、以下、「平成一〇年判決」という*6。)がそれである。
 本稿においては、新株発行に関する研究の一環として、公示義務違反の新株発行の効力について検討してみたい。すなわち本稿は、この問題についての判例・実務の位置付けを確かめ、その妥当性を検証することを目的とする。まず、本条違反の新株発行の効力に関する学説、判例を紹介し、その中における平成九年、一〇年判決の位置付けについて検討する。その後、判例の態度につき考察し、あわせて自説の確立に努めたい。

二.本条違反の新株発行の効力に関する学説と判例

1.学説
 学説は新株発行無効事由をどのように体系的に整理するかという問題とも絡み複雑に対立するが、おおまかな状況について述べると次のとおりである。
 まず有効説は、新株発行による法律関係の安定ないし取引の安全を重視する立場から、新株発行を取引行為に準ずるものと解することによって、本条の公示義務違反の新株発行は新株発行の無効原因とはならないとする*7。有効説は、本条の公示義務違反の新株発行は、取締役の責任の問題として処理されるべきであるとする。
 これに対し、無効説は、本条が、昭和四一年改正法において新設された趣旨を重視し、公示義務違反は新株発行の無効原因になると説く*8。骨子を述べると、次のとおりである。昭和四一年改正法は、新株発行に関し、有利発行の場合にのみ株主総会が必要であるとした。本条は、そのように限ったことの代償として、抜打ちの新株発行から株主を保護するために規定された。このような本条の趣旨からすれば、本条の公示義務違反の新株発行を無効と解すべきである、と。
 折衷説は、本条の公示義務違反の新株発行は原則として無効であるとしつつも、会社が差止事由のないことを立証した場合には、公示の欠缺は無効事由に当たらない、と説く*9。すなわち、折衷説は無効説に対し、@.株主が新株発行差止請求をしたところで、それが認められないような場合にまで、公示を怠ったという一事をもって新株発行を無効とするのは本末転倒である、A.差止請求の機会を与えるごとき手段にすぎないものを絶対視するのは行き過ぎである、として批判するのである。
 なお、この他にも、不公正発行それ自体を無効原因としつつ、右無効は善意者に対し対抗できないと説く説も、近時有力に主張されている(以下、「有力説」という*10。)。有力説は、公示義務違反自体は無効原因でないとする点では有効説そのものであるが、不公正発行自体が無効原因であるという発想の仕方からすれば、無効説を基調としていると考えることもできる。

2.これまでの判例の検討
 次に公示義務違反の新株発行の行為の効力の問題についてのこれまでの判例について検討する*11。

(1)東京地裁昭和四五年三月一七日判決(下民集二一巻三・四号四二四頁)
 下級審判例は、当初無効説に立ち、公示の欠缺は新株発行無効原因に当たるとするものが多かったといえる。昭和四一年改正法が本条を規定して以来、最初の判決である東京地裁昭和四五年三月一七日判決は、「本件新株の発行につき商法二八〇条ノ三ノ二所定の新株発行事項の公告及び株主に対する通知がなされていないことは当事者間に争いがなく、右公告または通知の欠缺は、新株発行無効の原因となると解するのが相当である」と判示し、端的に無効説を取っていた。ただ、この判決はその理由を明らかにしていなかった。

(2)東京高判昭和四七年四月一八日判決(判タ二七九号二〇九頁、金判五一七号四二頁)*12
 東京高判昭和四七年四月一八日判決は、名義上の株主及び増資の必要性・計画について知っていた他の株主に対し通知を怠っていたという事案について、「通知公告を欠くときは株主の新株発行差止請求権を不当に奪うことになる」ので、公示義務違反は「新株発行を無効ならしめる」として、無効説を採用した。そして、「たとえ名義上の株主にすぎないものであっても、いやしくも法律上株主の地位にある者の法律上の権利義務は全く無視することはできないし」、また増資の必要性・計画について知っていた株主に対しても、通知を必要としないためには、「予め商法二八〇条ノ三ノ二の定める各公示事項について具体的に承知せしめられていること」が必要だとして、公示を欠く新株発行を無効と判示した。
 この判決は、結論において前記東京地裁昭和四五年三月一七日判決を踏襲し、その理由を明らかにしたところに意義がある。

(3)大阪地判昭和四八年一一月二一日判決(判時七三六号九二頁、金判三九五号一二頁)*13
 かかる無効説は、引き続き大阪地判昭和四八年一一月二一日判決においても維持されることになる。この判決は、本条の趣旨につき「株主に対し事前に新株発行の差止の請求をする機会を保障すべく、その判断に必要な新株の内容、発行の方法、差止めうる時期を株主に了知させんがためである」として、事前の手段たる新株発行差止請求権が「株主の保護のための有力な手段である」ことを位置づけた上で、本条の「公告または通知を全く欠いた新株発行は無効となると解すべきである」と判示した。この判決はそのよって立つ無効説の論拠を、株主が新株発行差止請求権行使の機会の保障を強調し、より明らかにしている点に意義がある*14。

(4)大阪高裁昭和四九年一一月二七日判決(金判四四六号一八頁)*15
 ところが、その後、下級審判決の中で、折衷説を採用したものが現れた。大阪高裁昭和四九年一一月二七日判決がそれである。この判決は、前記大阪地判昭和四八年一一月二一日判決の控訴審判決であり、結論的にも、「商法二八〇条ノ二所定の株主総会の招集通知及びその添付書類をもって、同法二八〇条ノ三ノ二所定の通知をしたものと解するのが相当である」と新株発行の無効を認めなかった点で原判決と同様である。
 ただ、この判決は、公示義務違反が新株発行無効になるか否かにつき、「商法二八〇条ノ三ノ二所定の「公告又は通知」の欠缺の瑕疵は、同条の立法趣旨から考えて、(イ)同法二八〇条ノ三ノ三所定の適用除外の場合及び(ロ)株主が新株発行差止の請求をしてもそれが認められない場合を除き、新株発行無効の原因となるものと解すべきである」と判示している。判示のこの部分については、異論はあるものの*16、一般的に、無効説ではなく、折衷説にたつことを明らかにしたものであると解されている*17。

(5)名古屋地裁昭和五〇年六月一〇日判決(判例時報七九二号八四頁、金判五二九号二一九頁)*18
 そして、かかる折衷説は、名古屋地裁昭和五〇年六月一〇日判決においてもひきつがれる。 右判決は、「新株発行につき、商法二八〇条ノ三ノ二所定の公告又は通知の欠缺があった場合においても同法二八〇条ノ三ノ三所定の場合は除外されるのは当然として株主が新株発行差止請求をしても、それが認められないことを会社が立証した場合には無効原因とはならないものと解するのが相当である」と判示して折衷説に立つことを明らかにした上で、結論的に新株発行の効力を無効とした。この判決は、基本的に前記大阪高裁昭和四九年一一月二七日判決を踏襲したものであるが、ただ、前記大阪高裁昭和四九年一一月二七日判決とは異なり、「会社が立証した場合」との文言に見られるごとく、「株主が新株発行差止請求をしても、それが認められないこと」の証明責任を会社側にあることを明示している点に特徴がある。

(6)大阪高裁昭和五五年一一月五日判決(金判六二六号四〇頁)*19
 大阪高裁昭和五五年一一月五日判決は、Y会社の株主と主張するX及びY会社の株式の譲渡担保権者Fに対する公告・通知の欠缺が新株発行無効原因に当たるかが問題とされた事案である*20。右判決は、Xは株主でないと認定し、かつ、Fも本条の通知を要する者に当たらないと判示した。さらに、仮にFが本条の通知を要する者に当たるとしても、そもそも本条の「趣旨は、同法二八〇条の一〇の規定により法令もしくは定款に違反しまたは著しく不公正な方法による新株発行により株主が不利益を受けるおそれがある場合に株主に認められた新株発行差止請求権の行使を実質的に担保するために事前にその判断資料を株主に知らしめるというものであ」るが、Y社のなした新株発行は、資金繰りが悪化した同社の「経営を抜本的に立て直すため」にとられた措置であり、かかる場合、「株主に差止請求を肯認すべき事由を見出すことはできない」とする。したがって、Fに対し本条所定の通知がなかったことまたは公告がなかったことから直ちに本件新株発行が無効となるものではないと判示した。
 右判決は、X・Fともに株主でないと認定しているので、これらの者に対する公告・通知の有無は問題にならず、右要旨は傍論に属する。したがって、本条違反の新株発行の効力について直接判示したものではないといえる。
 しかし、本条の解釈に関してみれば、「株主に差止請求を肯認すべき事由を見出すことはできない」場合には、株主に対し本条所定の公告・通知がなかったことから直ちに本件新株発行が無効となるものではないとするので、折衷説と位置づけることができよう。ただ、前掲(5)判決が、「株主が新株発行差止請求をしても、それが認められないことを会社が立証した場合には無効原因とはならないものと解するのが相当である」としているのと比べると、その基準はいくらか緩やかなように思われる。

(7)東京地裁昭和五六年三月五日判決(判タ四四三号一四四頁)*21
 Y会社は、会社創設者たるXの親族が発行株式の九七パーセントを保有する同族会社で、非同族の従業員取締役の処遇をめぐって、Xとその実子間に争いがあったところ、東京地裁昭和五六年三月五日判決は、株主がY会社のなした新株発行につき、本条による適法な公示がなかったことなどの無効原因があるとして、当該新株について処分禁止の仮処分を求めた事案につき、瑕疵が軽微であり、「そのためにY会社の株主の新株発行差止を著しく困難にさせたものとも認められないので、……新株発行の無効原因とはならない」と判示した。
 ただ、この事件は、新株発行につき、Y会社は、本条の規定に従い、新株発行事項を官報に公告しているが、払込期日と公告との間の期間が本条所定の二週間にわずか一日不足していたというものであり、実質的に判断すれば、かかる軽微な瑕疵は株主の差止請求を困難ならしめないとも考えられる。従って、(7)判決は、有効説・折衷説のみならず、たとえ無効説を取ったとしても、取りえなくない結論である。従って、この判決をもって、有効説をとっていると判断することはできない。右判決は、この問題について特定の見解を示していないとみるべきであろう。

(8)東京地裁昭和五八年七月一二日判決(金判六九四号四二頁)*22
 東京地裁昭和五八年七月一二日判決は、次のような事案である。
 Y会社は、(7)の会社である。Y会社が新製品開発のために新株発行を行った結果、実子側の持株数がX側のそれを上回ることになった。そこでXは、公告と払込期日との間が本条所定の二週間に一日足りなかったところから、右新株発行に際し適法な通知・公告がなかったことなどを主張した。
 かかる事案につき、右判決は、新株発行は、会社の業務執行に準ずるものであり、その効力を判断するに当っては、旧株主の保護よりも、「新株取得者・会社債権者等の取引の安全を重視すべきであって、新株発行の手続上の瑕疵をもって直ちに新株発行を無効とすべきではなく、その瑕疵による法益の侵害と新株発行における取引の安全とを比較考量して、後者を犠牲にしてもなお無効としなければならないような場合を除いては、たとえ手続上の瑕疵があっても有効とし、その瑕疵に対する法的措置としては取締役の責任問題などを持って処理するのが妥当である」と一般論を述べた上、公告と払込期日との間が本条所定の二週間に一日足りなかっただけでは、「株主の有する新株差止請求の行使を著しく阻却したとはいえず、したがって、その瑕疵は新株発行における取引の安全との権衡上無効原因とはならない」と判示した。
 この判決についても、その論理は、前述した折衷説に依拠していると解される。

(9)東京地裁平成元年九月二六日判決(金判八四三号四三頁)*23
 これは、Y社の株主であるXが、Y社の二度に及ぶ新株発行について、いずれも株主に対する通知・公告を欠くことなどを理由に、新株発行無効の訴えを提起したという事案である。これについて、東京地裁平成元年九月二六日判決は、次のごとく判示した。
 すなわち、本条の「規定する新株発行事項の通知・公告の制度は、株主に同法二八〇条ノ一〇に基づく新株発行差止の機会を与えるために必須の制度であって、この通知・公告がない場合には、特殊な事情に基づき、他の経路で新株発行の予定を知ったときを除き、株主はほとんど新株発行の差止めをすることができないことになる。……したがって、そのような重要な通知・公告を欠いた新株発行を有効とするときは、商法が、事前救済の方法として、株主のために新株発行差止めの制度を設けた趣旨を没却することになり、ひいては株主に対し権利救済の道を閉ざすことになるといわなければならない。……したがって、新株発行事項の通知・公告を欠く場合には、特別の事情により株主が差止めの機会を有していたと認められるときを除き、当該新株発行は、重大な瑕疵があるものとして、これを無効とするべきである。」
 右判決は、今までみてきた折衷説の下級審判決と異なり、無効説に立脚するものである。

(10)神戸地裁平成五年二月二四日判決(判時一四六二号一五一頁)*24
 これは、Y会社の株主であるXらが、同社に対し、同社のなした新株発行がY会社の取締役であるA一族がY会社の支配を目的として行った著しく不公正な方法によるものであると主張して、右新株発行の無効を請求した事案である。
 この点について判決は、Y会社の新株発行に際し官報による公告がなされていたにもかかわらず、それは、前記目的を達成するためになされたものであり、右新株発行は、本条「所定の通知公告義務に実質上違反しており、Xらの新株発行差止請求権を侵害する方法によっている」として、結論的に新株発行の効力を無効と判示した。

(11)浦和地裁平成六年八月二六日判決(金判一〇〇四号一五頁参照)
 これは、Y会社(資本金一〇〇〇万円、定款に譲渡制限あり)の代表取締役Aが、株主X1〜3に内密に公示をせずに新株発行をし、右新株全部の割当てを受け、支配権を奪われたX1〜3が新株発行無効の訴えを提起したという事案である。この事案につき、判決は、本条が「株主に新株発行の差止めを求める機会を与えるために、会社が新株発行の所定の事項を、公告し又は株主に通知することを要するものとした法意からみれば、株主が右公告を知り、あるいは通知を受けたとしても、これを差止める余地はなかったとの事情が認められる場合でないかぎり、右公告、通知を欠いた新株発行は無効とすべきである」とした上、「その後、新株の大部分が第三者に譲渡されたとの事実があるとしても、本件新株発行は、原則どおり、無効であるといわなければならない」と判示した。この判決も、前に述べた折衷説に立脚するものと理解できる。

(12)東京高裁平成七年一〇月二五日判決(金判一〇〇四号一一頁、判時一六三九号一二七頁)*25
 これは、(11)事件の控訴審判決である。この判決は、商法二八〇条ノ三ノ二違反の新株発行の効力について、次のとおり、有効である旨判示し、折衷説をとる原判決を取り消した。「新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、取締役会の決議に基づき、会社を代表する権限を有する取締役により新株が既に発行された以上、右新株発行につき商法二八〇条ノ三ノ二所定の公告又は株主への通知を欠いていても、右新株発行は有効であると解するのが相当である。けだし、右規定による公告又は株主への通知は、株主にあらかじめ新株発行事項を知らしめて商法二八〇条ノ一〇所定の場合に新株発行差止請求をすることができるようにすることを目的とするものであるが、新株の発行は、株主との関係だけでなく、会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があるものであることにかんがみれば、新株の発行が右規定に違反してされてしまった場合に右規定違反を理由にこれを無効とすることは、会社をめぐる法律関係の安定性確保の見地から相当ではないからである。そうすると、本件新株発行は、商法二八〇条ノ三ノ二所定の公告又は株主への通知がされていないことをもって無効と解することはできず、Xらの右主張は採用することができない。」

3.平成九年・一〇年判決
 このような下級審判決があるなかで、平成九年判決が登場した。事案は次のとおりである。
A株式会社は、青果物の仲買業務を目的として昭和四一年に設立され、昭和五一年の時点で資本金一二〇〇万円(一二〇〇株)の同族会社である。Aは、昭和五四年に新株一二〇〇株を、昭和六三年に新株二四〇〇株をそれぞれ発行した旨の登記を経由した。
 A社(被告、控訴人、上告人)の昭和六三年の二四〇〇株の新株発行のうち九〇〇株をXが引受け、Y(原告、被控訴人、被上告人)の引受はなかった。その結果、Xが一二七〇株、Yが八〇〇株となって、両者の持株数が再び逆転した。そこで、Yは、商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知がされていないこと等を理由に、Aを被告として、新株発行無効の訴え(商法二八〇条ノ一五)をその出訴期間内に提起し、昭和六三年の新株発行を無効とすることを請求した。
 第一審(金沢地裁平成三年二月八日判決(民集五一巻一号五一頁参照))は、Yの請求を認容して昭和六三年の新株発行を無効とし、原審(名古屋高裁金沢支部平成四年一〇月二六日判決(民集五一巻一号六〇頁参照))もAの控訴を棄却した。第一審判決及び控訴審判決は、右にみたこれまでの下級審判決の流れと異なり、公示義務違反を新株発行無効原因とせず、前記有力説の立場に立ち、不公正発行自体を無効原因と捉えた。これに対し平成九年判決は、次のとおり判示し、従来の下級審判決がとってきた折衷説を採用することを明らかにした。
 「新株発行に関する事項の公示(同法二八〇条ノ三ノニに定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから(最高裁平成元年(オ)第六六六号同五年一二月一六日第一小法廷判決・民集四七巻一〇号五四二三頁参照)、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であり、……本件において新株発行差止請求の事由がないとはいえないから、結局、本件の新株発行には、右(一)の点(新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノニに定める公告又は通知がされていないこと)で無効原因があるといわなければならない。したがって、本件の新株発行を無効とすべきものとした原判決は、結論において是認することができる。」
 さらに、翌年、平成九年判決に続き、平成一〇年判決が登場した。これは(12)判決の上告審判決である*26。平成一〇年判決は、平成九年判決を引用しつつ、有効説をとった原審を覆し、次のように判示した。
 「新株発行に関する事項の公示………は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解すべきである」
 この判決も、差止事由がない場合でない限り、公示義務違反の新株発行の効力を無効としており、折衷説をとっていると評価できる。

三.検討

1.判例の評価
 これらの判決をみてわかるとおり、無効説ないし折衷説をとるものが多い。すなわち、どの見解に依拠しているか不明である(7)の判決と「実質的」公示義務違反についての(10)を除くと、これまでの下級審判例のうち無効説に立脚するものは、(1)(2)(3)(9)、折衷説に立つものは、(4)(5)(6)(8)(11)、有効説に立つものは、(12)のみである。しかも(12)の立脚する有効説は、その上告審である平成一〇年判決により否定されている。ごく大まかに整理すると、無効説から折衷説への流れが見受けられる。つまり、現在の実務の趨勢は折衷説であったと理解できる。してみると、最高裁の平成九年・一〇年判決は、公示義務違反がなされた事案に関してのこれまでの実務を追認したものであるといえよう。
 これまでの下級審・最高裁判例の事案を通じて次のことが指摘できると思われる。
(イ)公示義務違反が問題となるような会社はいずれも公開会社ではなく、小規模閉鎖会社であるということ*27
(ロ)このような小規模閉鎖会社において、公示義務違反は、支配権を争奪しようとするためなされるものであること*28。
このような小規模閉鎖会社においては、株式が市場価値を持たない。だから不利益を受ける株主の損害は算定不可能であり、損害賠償により救済を図ることは事実上困難である。加えて株式に市場価値がない以上、株式を譲渡して会社から逃げ出すことができない。従って閉鎖会社における支配権争奪は、少数派(になる)株主にとって極めて深刻であり、当該新株発行を無効として救済をはかる必要性が高いといえる。判例が、公示義務違反の新株発行の効力に関し、無効説ないし折衷説をとるのは、右のような認識に基づくものと評価できる。それゆえ、平成九年・一〇年判決の射程が公開会社にまで及ぶかについては議論がありうるところであろう。いずれにせよ、以上の検討から、この問題についての判例は(少なくとも閉鎖会社の事案に関しては)確立したと評価してもよいと思われる。

2.検討
 すでに検討したとおり、この問題が生じるのは閉鎖会社において支配権争奪が起こる場合である。閉鎖会社でも、定款に株式の譲渡制限の規定をおいている場合は、平成二年改正により、株主に新株引受権が法定されたため(二八〇条ノ五ノ二)、支配権争奪は株主の新株引受権無視の問題として処理される。したがって公示義務違反を無効として問題を解決する必要はない。二八〇条ノ五ノ二の新株引受権の無視は、新株発行無効事由にあたると解されているからである*29。
 そうすると念頭におくべきなのは、譲渡制限のない閉鎖会社である。この点につき、これらの会社については、定款に譲渡制限規定をおかなかった以上、公開会社と同様に、新株発行により、株主の支配的利益が奪われても仕方ないという考えもありえよう。その背景には、(譲渡制限規定をおかない限り)株主の新株引受権は当然には認められておらず、支配比率の維持についてはそもそも保障されていないという価値判断がある。この考えかたを徹底すると有効説に行き着く*30。しかし、このように割り切ることについては躊躇を覚えざるを得ない。現行の定款の譲渡制限規定は昭和四一年改正によって規定されたものである。それ以前に設立された会社においては、譲渡制限のメリットを享受するためには定款変更が必要である。しかし、譲渡制限を付する定款変更をなすためには、株主総会の特殊決議(三四八条)、株式買取請求権(三四九条)など手続上の制約が多い。したがって譲渡制限の規定を利用したくても事実上不可能な場合も考えられる。また、譲渡制限のない会社には、さまざまなバリエーションがありえ、一概に公開会社と決め付けるわけにはいかない。例えば、同族性の維持、経営理念などの点から上場をしていないだけで公開会社と同視しうる場合もあれば、数年後の上場に向け企業組織の見直し中の会社のように閉鎖会社的体質から脱却しきれず、まだ公開会社とはいえない場合*31なども考えられる。後者の会社においても、譲渡制限規定がないというだけで、支配権を奪われてもよいと割り切るのは妥当ではあるまい。このような会社も閉鎖会社である以上、先に述べたとおり、株主の救済は新株発行の効力を無効とすることではかるしかないことは、譲渡制限のある会社と同様なのである。
 では、どの見解が支持されるべきであるか。まず有効説が妥当でないことについては、右に述べたところからも伺えよう。それだけではない。平成六年判決が無効事由を極度に狭くとらえた結果、実務上、株主の救済は、事前の手段である新株発行差止仮処分の行使に頼らざるを得ない。ところが、もし有効説によると、会社は、公示義務を尽くさないことにより、株主の唯一の救済手段たる差止の機会を容易に奪えるということになる。むしろ株主の権利の実効性ということを考えると、これら譲渡制限のない閉鎖会社における方がより問題が深刻であるといえる。やはり、公示義務違反の新株発行は原則として無効と解すべきである。
ただ、右公示義務はあくまでも差止の機会を保障するためのものであるから、差止が認められない場合にまで無効を貫くのは行き過ぎであろう。別稿で述べたごとく、差止仮処分違反の新株発行の効力について相対的処理を妥当とする私見の立場*32では、差止違反との均衡からいっても無効説は取り得ない。結論としては今まで判例の主流の立場であった折衷説がもっとも妥当と思われる*33。
 折衷説に対しては、@.会社が資本増加の必要性(これは常に存在するであろう)さえ立証すればよいから有効説と変わらないのではないか、A.会社が差止事由がないと考えると公示義務を怠るようになるのではないかなどとして批判がなされている。
 第一の点は「差止事由」なかんずく「不公正発行」とは何かという問題である。この点については争いがあるものの、取締役が支配権を維持するために自派に新株を割り当てる場合、たとえ資金調達目的があっても、不公正発行にあたると解することが可能であろう*34。このように解すれば第一の批判はクリアできる。
 第二の点は結局証明責任の分配の問題に帰着する。この点については差止事由があったことについて原告が証明責任を負うとする見解と、逆に差止事由がなかったことについて、被告会社が証明責任を負うとする見解*35とがありうる。思うに、新株発行の差止の機会を保障するという公示義務規定の趣旨に鑑みれば、その懈怠を軽微な瑕疵とみることはできず原則的には無効とみるべきだろう。そうすると差止事由のなかった場合にはじめて例外的に無効とならないというべきである。その意味では後説が妥当と考える。平成九年判決も「新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であ」ると判示して、後説にたつことを明らかにした。このように解すると、(公示義務違反以外に)差止事由の不存在について会社が証明できない限り、新株発行は無効になる。従って第二の批判も当たらない*36。
 結論として、批判はいずれもあたらず、折衷説をもって妥当と考える。
 なお、理論的には、以上の検討ではふれなかった公開会社における公示義務違反の問題についても考える必要がある。別稿にて述べたとおり、私見は、差止仮処分違反の新株発行の効力について相対的処理をもって妥当と考えるので、これによれば、公開会社の場合は差止仮処分違反の新株発行の効力は有効とされる余地がありうる。したがって、その場合、公開会社事例においては、「差止事由」がなかったとして処理すれば足りるであろう。結論として、その場合でも折衷説が妥当であることになる。

3.公示制度の問題点
 折衷説の基本的認識によれば、公示はあくまでも株主の差止請求権行使の機会を保障するための手段に過ぎない。株主の救済は新株発行差止請求権の行使によりはかられるのである。前に述べたとおり、平成六年判決が無効事由を極度に狭く捉えた結果、株主の救済は、事実上事前的手段である差止仮処分によらざるをえないことになった。このように新株発行差止請求権をもって株主の主要な救済手段と理解する場合、その実効性が問題となる。差止仮処分の実効性については別稿*37で検討したところであるが、差止の機会を保障するための現行の公示制度はあまりにも不十分である。
 確かに譲渡制限のある閉鎖会社の株主に対しては、前述のとおり、新株引受権を法定された。したがって、これらの会社における支配権争奪に関しては、今後は株主の新株引受権無視として考えればよい。しかし、譲渡制限のない閉鎖会社においては依然として問題は残されている。この点、現行の公示規定は、公示の方法として公告「又は」通知を要求しているため、ひっそりと「目立たない公告」をすることで、実質的に公示義務規定を潜脱することを許す結果になってしまっている。これについては、さしあたり(10)事件のごとく、「実質的公示義務」違反と構成することで解釈上処理することが可能である。しかし、本質的な解決としては、譲渡制限をしていない閉鎖会社に関して、立法上、株主の数が一定数以下の場合には、各株主への通知を義務付けるべきと考える*38。 またそれにとどまらず、そもそもこのような支配権争奪を防ぐためには、全ての会社の株主に新株引受権を法定するというような改正もなされるべきではあるまいか*39。いずれにせよ、新株発行法制に関しては今後立法論的な検討が不可欠である*40。

四.結びに代えて

 本稿では公示義務違反の新株発行の効力につき折衷説をとる裁判所のこれまでの態度について基本的に支持できることを論じた。ただ、今後の課題として、新株発行の無効原因をどう理論的に統一するかの課題*41が残されている。とりわけ、著しく不公正な方法により新株発行がなされた場合取得者の善悪で相対的に処理すべきとし、本稿で公示義務違反につき、原則として一体として新株発行を無効とするわけだから、両者の違いをどのように整理するかは問題である。ひとつの回答としては、(10)事件のごとく、目立たないように公示することを「実質的公示義務違反」と構成することで、統一的に理解することが可能ではあろう。ただ、無効原因の整理としては、根本的な解決にはならない。この点については、筆者に残された課題であり、いずれ別稿を用意したい。




*1この判決の評釈として次のものがある。青竹正一・民商法雑誌一一四巻二号(平成八年)一三四頁、居林次雄・金判九六四号五〇頁、江川孝雄・山梨学院大学法学論集三六号(平成八年)二三四頁、柿崎榮治・法律のひろば四八巻八号(平成七年)四四頁、坂田桂三=松嶋隆弘・日本法学六一巻二号(平成七年)二〇七頁(以下、「坂田=松嶋@」とする。)、酒巻俊雄・判タ九七五号一九一頁、塩田親文・私法判例リマークス一一号(平成七年)一〇九頁、柴田和史・判時一五三一号二一六頁、戸川重弘・富大経済論集四二巻一号(平成八年)一九五頁、西尾信一・銀行法務21 五〇二号七四頁、前嶋京子・下関市立大学論集三九巻二・三号(平成八年)一三二頁、前田雅弘・平成六年重判一〇一頁、山口和男・判タ八八二号二二〇頁、山下友信・会社判例百選(第六版)一四八頁、吉田直・青山法学論集三七巻一号(平成七年)一〇三頁、吉田正之・法学五九巻四号(平成七年)一五三頁など。
*2坂田=松嶋@・二〇七頁以下
*3この判決の評釈として次のものがある。上原敏夫・判時一五〇六号二一四頁、大槁弘・ジュリスト一〇四七号八〇頁、同・『平成五年度最高裁判例解説民事編(下)』(平成八年)一〇一五頁以下、柿崎環・早稲田法学七一巻四号(平成八年)一七三頁、北村雅史・私法判例リマークス一〇号(平成六年)一二〇頁、小林量・商事法務一三四八号八頁、一三四九号一七頁、近藤弘二・法学教室一六五号一二〇頁、なお、同「新株発行差止の効力」西原追悼『企業と法下』(平成八年)一七三頁、坂田桂三=松嶋隆弘・司法研究所紀要第七巻(平成八年)一〇一頁(以下、「坂田=松嶋A」とする。)、坂本延夫・平成五年度重判一一二頁、同・会社判例百選(第六版)一四六頁、西山芳喜・判タ九四八号一八五頁。なお、右最高裁判決の原審(大阪高裁昭和六三年一二月二二日判決・判タ六九一号二二〇頁)の評釈として、庵前重和・判タ七三五号二六二頁、新谷勝・金判八五九号四一頁
*4松嶋「商法上の差止仮処分の実効性について(一)〜(三・完)」日本法学六二巻三号(平成八年)一四七頁、六三巻二号(平成九年)九三頁、六四巻一号(平成一〇年)一一九頁
*5この判決の評釈として次のものがある。青竹正一・民商法雑誌一一七巻四・五号(平成一〇年)一五七頁(以下、「青竹」として引用する。)、同・平成九年重判九五頁、栗山徳子・判タ九四八号一八二頁、近藤崇晴・法曹時報四九巻一一号(平成九年)三〇〇頁、中東正文・法学教室二〇一号一一八頁、並木和夫・会社判例百選(第六版)一四一頁、山口和男・判タ九七八号一六六頁
*6この判決の評釈として、松嶋・日本法学六四巻四号(平成一一年)二二三頁参照。
*7河本一郎『現代会社法〈新訂第七版〉』(平成七年)二六九頁、森本滋「新株の発行と株主の地位」法学論叢一〇四巻二号(昭和五三年)一八頁
*8田中誠二『三全訂会社法詳論(下巻)』(平成六年)九七五頁、一〇一〇頁、坂本「公示義務を欠く新株発行の効力−無効説の再論−」高窪還暦記念『現代企業法の理論と実務』(平成五年)二二六頁、味村治『改正株式会社法』(昭和四二年)一八二頁、坂田桂三『現代会社法(第三版)』(平成七年)五四一頁など
*9鈴木竹雄「新株発行の無効と差止」『商法研究V』(昭和五一年)二三五頁(初出・菊井献呈『裁判と法(下)』(昭和四二年))など。
*10吉本健一「新株発行の瑕疵を争う最近の事案」判タ九一七号(平成八年)一六二頁
*11下級審判決を概観するものとして、坂本・前掲論文二二六頁以下
*12この判決の評釈として、田中誠二・金判三五五号二頁
*13この判決の評釈として、坂本・金判四二五号二頁
*14ただ、この事案では、通知・公告がなくても、商法二八〇条ノ二第二項の株主総会の招集通知及び添付書類をもって、本条の通知をしたものと解するのが相当であるときには、右通知に多少の不備があっても新株発行の無効原因には当たらず、本件が、かかる場合に当たるとして、新株発行を有効とした。この判決の事案では、招集通知と同時に送付された新株発行の必要性を説明した書面があったので、これらの書面やその他の事情を考慮し、実質的に判断すれば、株主の新株発行差止請求権行使の機会の保障は十分としたものであろう。
*15この判決の評釈として、坂本・金判四七五号二頁
*16坂本・金判四九〇号七頁は、この判決について、「一見折衷説を採用しているようでもあるが、……事案を実質的に判断して、商法二八〇ノ二第二項の総会の招集通知をもって、本条所定の通知があったものと解し、その立場が折衷説に基づくものか否かを必ずしも明らかにしないまま、事案の処理を行っている」と評価される。
*17本件の控訴審において鑑定意見を提出したのが、鈴木竹雄博士であり、鈴木博士は前述のごとく、折衷説をとられている。このことから、この判決が、原審の採用した無効説でなく、折衷説をとったのは、学説の影響であると指摘されている。金判四四六号一八頁のコメント参照。
*18この判決の評釈として、坂本・前掲金判四九〇号二頁。
*19この判決の評釈として、阪埜光男・金判六四五号五〇頁。
*20次のような事案である。Y会社は、資金繰りに窮したため、その全株式をFに譲渡担保に供した(なお、Y会社は、発行済株式数二〇〇株の会社であるが、現実には株券は発行されておらず、同社の代表取締役Aが保管していた株金払込領収証が株主の地位を証明する唯一の文書であった。。)。同社は、その所有工場・事務所の所有権をめぐって甲との間でトラブルが生じたため、その解決をFの知人であるXに依頼し、右交渉を有利にする便宜上、XをY社の共同代表取締役にし、同人に対してYの全株式を譲渡するとの内容の株式譲渡証書を作成した。ところが、Xによる甲との交渉はうまく行かず、そのうちにY社の資金繰りがますます悪化してしまった。そのため、同社の監査役Tが資金援助に乗り出すことになり、Xは共同代表取締役を解任された。そして、新たに新株二〇〇株を発行する旨の取締役会決議がなされ、それをTが引き受けた。
右決議に際して、公告・通知がなされなかったところから、Xは、右公告・通知の欠缺を理由に新株発行無効の訴えを提起した。
*21この判決の評釈として、阪埜・法律のひろば三五巻五号七六頁。
*22この判決の評釈として、鈴木竹雄「新株発行の無効再論」商事法務九九八号(昭和五九年)二頁、坂本・金判六九八号四四頁等がある。
*23この判決の評釈として、坂本・金判八五三号四六頁。
*24この判決の評釈として、丸山秀平・金判九三四号四二頁、小林量・私法判例リマークス一九九四<下>一一六頁、前田修志・ジュリスト一一一七号二〇二頁。
*25この判決の評釈として、居林・金判一〇一一号四一頁、片木晴彦・私法判例リマークス一九九七<下>一〇七頁、松嶋・司法研究所紀要第八巻一七一頁
*26この点の調査につき、東京地方裁判所書記官古川良一氏のご協力を得た。ここに記して感謝する。
*27(3)(4)事件の会社(同一会社)は、資本金八億円・発行済株式総数一六〇〇万株とやや大きいものの、(5)事件の会社は、資本金三〇〇万円・発行済株式総数六〇〇〇株、(6)事件の会社は資本金二〇〇万円・発行済株式総数二〇〇株、(9)事件の会社は発行済株式総数四万株、(11)(12)事件の会社(同一会社)は資本金一〇〇〇万円・定款に譲渡制限ありといったように、いずれも小規模な会社である。(7)(8)事件の会社(同一会社)及び(10)事件の会社は公刊物上資本金額こそ明らかではないものの同族会社であるとされている。平成九年判決における会社も資本金一二〇〇万円(一二〇〇株)の同族会社である。
こうしてみると、いずれの会社も、小規模な閉鎖会社であるという点で共通していることが分かる。少なくとも公開会社ではないといえよう。
なお、会社の規模が不明なのは(1)(2)事件における会社であるが、これもおそらく小規模な同族会社ではないかと推測される。
*28坂本・前掲論文二三一頁
*29酒巻俊雄『改正会社法の理論と実務』(平成三年)一〇一頁
*30(12)判決が有効説をとった背景としては本文に述べたような判断があったように推測される。
*31株式を公開するにあたっては、例えば、定款・会計制度の整備、就業規則の見直し、名義書換代理人の設置、(あれば)関連会社の整理等のように、会社組織の全面的な整備が必要であり、これらは、通常、監査法人の指導のもとに行われる。これらすべて整備し、実際に公開にこぎつけるまでには、例えば店頭登録の場合でも三年程度は必要であると聞く(これらについては、監査法人トーマツ編『店頭登録実務ハンドブック(第四版)』(平成九年)、三井信託銀行証券代行部編『新訂版新規公開のための株式実務』(平成一〇年)等を参照)。例えば、数年後の店頭登録に向け、定款の譲渡制限をはずしたばかりの会社を、まだ店頭登録でまで数年ある段階で(予備審査すらまだなのに)公開会社と同様に取り扱うこと不合理と思われる。
*32松嶋・前掲論文(一)一六六頁。ただ具体的な理論構成については結論を留保している。
*33折衷説への批判とそれに対する反論については、青竹A・六七八頁参照
*34青竹・前掲判批六七九頁
*35近藤・前掲評釈三〇六頁、なお(5)判決はこの立場に立つことを明示している。
*36青竹・前掲判批六七九頁。
*37松嶋・前掲論文(一)一四七頁以下、(2)九三頁以下、(3)一一九頁以下
*38鈴木・前掲評釈五頁、浜田道代「閉鎖会社における第三者割当増資」商事法務一一九一号二五頁。なお中東・前掲評釈一一九頁は、本文で述べた「株主の数」につき、公告の費用が、官報で四〜一〇万円程度、日本経済新聞の全国版で五六万円からとされているところから、これを一株主あたりの通知の費用で除した数を目安として、算定することを提案される。
*39公開会社における支配権争奪の問題については、ひろく公開会社についても株主の新株引受権を法定することにより立法論的に解決されるべきであろう(松嶋・前掲論文(三)一三三頁参照)。山本真知子「閉鎖会社と新株発行」慶応義塾大学大学院法学研究科論文集三七号(平成八年)六四頁は、公開会社の株主に対しても新株引受権を法定すべきとしつつ、「閉鎖会社に比して、より資金調達の機動性が要請される公開会社においては、株主総会の決議要件は閉鎖会社の場合よりは緩和し、定款で定足数の排除が認められる通常決議にする」旨提言される。
*40片木・前掲評釈一一〇頁は立法論として、新株発行の訴が確定した段階ではなく(商法二八〇条ノ一六、一三七条)、提起された段階で訴訟の存在を登記して、債権者や新株の転得者に対する警告をなすことを検討すべきであるとされる。
*41この点について、吉本健一「新株発行の無効判断の根拠」菅原古希記念『現代企業法の理論』(平成一〇年)六七一頁以下参照
(校正終了後に、青竹正一「新株発行の公示を欠く新株発行の無効と不公正発行の判断基準(上)」判時一六五八号一九六頁に接した。)

Note