[判例研究] 公示を欠く新株発行につき、無効原因があるとされた事例 
日本大学法学部専任講師 松嶋隆弘


(平成八年(オ)第二八〇号平成一〇年七月一七日第二小法廷判決、破棄自判、原審東京高等裁判所、判例時報一六五三号一四三頁、判例タイムス九八五号一三四頁、金判一〇五七号一五頁)



【事実】

一 Y株式会社(被告・控訴人・被上告人)は、平成三年三月当時、発行済株式の総数が二万株、資本金が一〇〇〇万円であり、その役員は、代表取締役がA、取締役がAの父であるB及びC、監査役がX1(原告、被控訴人、上告人、以下同じ)であった。右当時の株主及びその持株数は、Aが四四〇〇株、その姉であるX2が二九〇〇株、その夫であるX1が七五〇〇株、X1が代表取締役であるX3株式会社が四〇〇〇株、Cが二〇〇株、Dが一〇〇〇株であり、Yの株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあった。
 Yは、平成三年三月当時約一億三〇〇〇万円の借入金があり、その利息と元本の支払に年間約二五〇〇万円を要するため、運転資金に不足を来す状況にあったところ、Aは、Yの増資を計画し、知人であるEに相談し、取りあえず出資金を自らが立て替えて増資し、発行したYの新株をEに譲渡して立替金を回収することでEの了承を得た。
 Yは、平成三年三月二九日午前一〇時、Y本社の会議室において、A、B及びCが出席して取締役会を開催し、額面五〇〇円の新株を一万二〇〇〇株発行してこれをAに割り当て、発行価額を一株一九〇〇円、払込期日を同年五月二三日とすること等を決議したが、その際、Aは、Cに対し、この増資の件を取引先に知られたくないのでしばらく他言しないように頼んだ。
Aは、株主であるX3及びDの各事務所に電話したが、連絡がとれず、結局、Yは、払込期日の二週間前までに商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告も株主への通知もしなかった。
 Aは、平成三年五月二〇日、Yに対し、申込証拠金二二八〇万円を添えて、新株一万二〇〇〇株を発行価額一株一九〇〇円で引き受けることを申し込み、払込取扱銀行である株式会社F銀行G支店は、同月二三日付けで二二八〇万円の株式払込金保管証明書を発行し、Yは、同月二四日付けで発行済株式の総数を三万二〇〇〇株、資本金を二一四〇万円とする増資の登記を経由した(以下「本件新株発行」という。)。
 なお、平成三年五月三〇日に、A、B及びCが出席してYの取締役会が開催され、Aの所有するYの株式のうち、二〇〇株をBに、一万株をEに各譲渡することが承認され、Yは、同年六月三日付けで、Aに六二〇〇株の、Bに二〇〇株の、Eに一万株の各株券を発行し、右各人はこれを受領した。

二 原審(東京高裁平成七年一〇月二五日判決(東京高等裁判所(民事)判決時報四六巻一〜一二号三三頁、判時一六三九号一二七頁、金判一〇〇四号一五頁))は、右の事実関係の下において、次のとおり判示して、XらのYに対する新株発行無効請求を認容した第一審判決を取り消し、Xらの請求を棄却した。
 「商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠いたまま新株が発行がされた場合であっても、右規定違反を理由にこれを無効とすることは、会社をめぐる法律関係の安定性確保の見地から相当でなく、新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、取締役会の決議に基づき、会社を代表する権限を有する取締役によって新株が既に発行された以上、右新株発行は有効であると解するのが相当であり、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、右新株発行の効力は左右されない。」

【判旨】

 本判決は、原審の右判断を是認できないとして、次のとおり、破棄自判した。
 「新株発行に関する事項の公示(商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解すべきである(最高裁平成五年(オ)第三一七号同九年一月二八日第三小法廷判決・民集五一巻一号七一頁参照)。
 これを本件についてみるに、前記事実関係に照らせば、(一)Aは、本件新株発行についてCに他言しないように頼み、当時発行済株式の総数の過半数を所有していたXらに通知しないまま本件新株発行を行っているが、これはXらに秘匿して行ったものといわざるを得ないこと、(二)本件新株発行により、Xらの持株は過半数を割り込むことになり、他方、Aの持株は過半数を上回ることになって、Yに対する支配関係が逆転すること、(三)本件新株発行が取締役会で決議されたのは、商法の一部を改正する法律(平成二年法律第六四号)の施行日である平成三年四月一日の直前の同年三月二九日であって、もし右施行日後に右決議がされていれば、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めのあるYの株主であるXらは新株引受権を有することになったはずであること(同法附則一四条、商法二八〇条ノ五ノ二)、(四)新株の払込期日は右決議の約二箇月も先である同年五月二三日と定められており、新株発行により増資されても、それが直ちに株式会社の運転資金を調達したことにはならず、Yが本件新株発行を決議した当時、その公示をしないで本件新株発行を急がねばならないほど資金を緊急に調達する必要があったとはいい難いこと等の事情が存することが明らかである。右によれば、本件新株発行は「著シク不公正ナル方法」(同法二八〇条ノ一〇)によるものではないとは到底いえず、差止めの事由がないとは認められないから、前記の通知又は公告を欠く本件新株発行には、無効原因があるというべきである。」

【評釈】

一. はじめに

 本件は、東京高裁平成七年一〇月二五日判決(東京高等裁判所(民事)判決時報四六巻一〜一二号三三頁、判時一六三九号一二七頁、金判一〇〇四号一五頁12)の上告審判決である。右判決は、商法二八〇条ノ三ノ二の公示義務に違反する新株発行の効力を有効であると判示した。これに対し本判決は、本件新株発行は「新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解すべきである」と判示し、原審を破棄した。
 このような本件判決の考えは、いわゆる折衷説として、従来の下級審判決のとるところである。すでに本件判決の一年前に、最高裁判所は、公示義務違反の新株発行の効力に関し、折衷説をとることを明言している(最高裁平成九年一月二八日判決3民集五一巻一号七一頁、以下、「平成九年判決」という。)。その意味では、本判決が折衷説をとることは予想されていたところであるといえる。本判決の意義は、有効説に立つ原判決を否定し、平成九年判決のとる折衷説を確認したところにあるといえる。
 なお、本判決は、判旨(一)〜(四)の事実から、本件新株発行が「著シク不公正ナル方法」によるものではないとは到底いえないとしている。この点は、近時不公正発行の判断基準として議論されている。本稿では、これについては触れない。差止請求の挙証責任の問題として別項を予定している。

二. 学説と判例

 ここで、今までの学説と判例についてごく簡単に振り返ってみたい。まず学説についてみる。学説は新株発行無効事由をどのように体系的に整理するかという問題とも絡み複雑に対立する。おおまかな状況について述べると次のとおりである。まず有効説は、新株発行による法律関係の安定ないし取引の安全を重視する立場から、新株発行を取引行為に準ずるものと解することによって、本条の公示義務違反の新株発行は新株発行の無効原因とはならないとする4。有効説は、本条の公示義務違反の新株発行は、取締役の責任の問題として処理されるべきであるとする。
 これに対し、無効説は、本条が、昭和四一年改正法において新設された趣旨を重視し、公示義務違反は新株発行の無効原因になると説く5。骨子を述べると、次のとおりである。昭和四一年改正法は、新株発行に関し、有利発行の場合にのみ株主総会が必要であるとした。本条は、そのように限ったことの代償として、抜打ちの新株発行から株主を保護するために規定された。このような本条の趣旨からすれば、本条の公示義務違反の新株発行を無効と解すべきである、と。
 折衷説は、本条の公示義務違反の新株発行は原則として無効であるとしつつも、会社が差止事由のないことを立証した場合には、公示の欠缺は無効事由に当たらない、と説く6。すなわち、折衷説は無効説に対し、@.株主が新株発行差止請求をしたところで、それが認められないような場合にまで、公示を怠ったという一事をもって新株発行を無効とするのは本末転倒である、A.差止請求の機会を与えるごとき手段にすぎないものを絶対視するのは行き過ぎである、として批判するのである。
 なお、この他にも、不公正発行それ自体を無効原因としつつ、右無効は善意者に対し対抗できないと説く説7も、近時有力に主張されている(以下、「有力説」という。)。有力説は、公示義務違反自体は無効原因でないとする点では有効説そのものであるが、不公正発行自体が無効原因であるという発想の仕方からすれば、無効説を基調としていると考えることもできる。
 では、判例は右学説のうちのどれを支持しているのであろうか8。これまでの下級審判例は、本判決の原審が有効説をとっている以外は、大別すると、無効説をとったもの9と折衷説をとったもの10とに分かれる。どちらかというと折衷説をとったものが多いということができる。そして、最高裁は、このような下級審実務を踏まえ、平成九年判決において、折衷説の立場を確認した。本判決も、平成九年判決を引用しつつ、「新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解すべきである」と判示しており、折衷説の立場をとることを明らかにしている。
 これらのことからすると、実務上、折衷説は確立したとみるべきと考える。ただ、判例の事案は、いずれも閉鎖会社に関するものであり、公開会社についての事案はまだないようである。したがって、公開会社についてこのような公示義務違反の新株発行がなされた場合、判例が折衷説を維持するかどうかはまだ残された問題である。

三. 検討

1. まず検討されるべきは、本判決が折衷説を採ることの当否である。この点につき、まず本件の原審のとる有効説は妥当でないと考える。以下の理由からである11。著しく不公正な方法による新株発行の効力をも有効とした平成六年の最高裁判決(最高裁平成六年七月一四日判決(判時一五一二号一七八頁、判タ八五九号一一八頁、金判九五六号三頁12、以下、「平成六年判決」という。)が無効事由を極度に狭くとらえた結果、実務上、株主の救済は、事前の手段である新株発行差止仮処分の行使に頼らざるを得ない。ところが、有効説によると、会社は、公示義務を尽くさないことにより、株主の唯一の救済手段たる差止の機会を容易に奪えるということになる。譲渡制限のある会社における支配権争奪については、判旨(二)指摘のとおり、株主に新株引受権が法定され、一応の解決をみた。しかし譲渡制限のない会社においては、まだ問題は残されている。むしろ株主の権利の実効性ということを考えると、譲渡制限のない閉鎖会社における方がより問題が深刻であるといえる。やはり、公示義務違反の新株発行は原則として無効と解すべきである。
 ただ、右公示義務はあくまでも差止の機会を保障するためのものであるから、差止が認められない場合にまで無効を貫くのは行き過ぎであろう。別稿で述べたごとく、差止仮処分違反の新株発行の効力について相対的処理を妥当とする私見の立場13では、差止違反との均衡からいっても無効説は取り得ない。結論としては今まで判例の主流の立場であった折衷説がもっとも妥当と思われる14*。
 折衷説に対しては、@.会社が資本増加の必要性(これは常に存在するであろう)さえ立証すればよいから有効説と変わらないのではないか、A.会社が差止事由なしと考えると公示義務を怠るようになるのではないかなどとして批判がなされている。 第一の点は「差止事由」なかんずく「不公正発行」とは何かという問題である。この点については争いがあるものの、取締役が支配権を維持するために自派に新株を割り当てる場合、たとえ資金調達目的があっても、不公正発行にあたると解することが可能であろう15。このように解すれば第一の批判はクリアできる。この点、本判決は明確な判断枠組みを示していない。ただ判示(一)の新株発行の秘匿や(二)の支配関係の逆転といった事情を(三)取締役会の時期、(四)資金調達の緊急性の欠如という事情と併せ考えている点からみて、かかる考えを排斥するものとは解しがたい。
 第二の点は結局証明責任の分配の問題に帰着する。この点については差止事由があったことについて原告が証明責任を負うとする見解と、逆に差止事由がなかったことについて、被告会社が証明責任を負うとする見解16*とがありうる。思うに、新株発行の差止の機会を保障するという公示義務規定の趣旨に鑑みれば、その懈怠を軽微な瑕疵とみることはできず原則的には無効とみるべきだろう。そうすると差止事由のなかった場合にはじめて例外的に無効とならないというべきである。その意味では後説が妥当と考える。平成九年判決も「新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であ」ると判示して、後説にたつことを明らかにした。本判決も平成九年判決を引き、同様の考えに立つことを明らかにしている。このように解すると、(公示義務違反以外に)差止事由の不存在について会社が証明できない限り、新株発行は無効になる。従って第二の批判も当たらない17*。
 結論として、批判はいずれもあたらず、折衷説をもって妥当と考える。

2. 本判決および平成九年判決は、差止仮処分違反の新株発行の効力を無効とした平成五年の最高裁判決(最高裁平成五年一二月一六日判決(民集四七巻一〇号五四二三頁18、以下、「平成五年判決」という。)を引用して、前記折衷説の立場を明らかにした。これに対して、本判決の原審は、前記平成六年判決を引用し、有効説を採用した。
 このように、近時、新株発行の無効原因に関し、一見対照的な最高裁の判決が二つ存在する以上、本判決のとる折衷説をこれらの判決の中に位置付ける必要がある19。
まず、平成五年・六年両判決の関係について考えてみよう。
 従来、新株発行の無効原因については、個別の無効原因ごとに、別個に議論がなされていた。そして、どの無効原因についても、解釈上争われる場合、株主保護を意図する無効説と、取引安全を主張する有効説、両者の折衷説が主張され、利益考量による議論がなされている。ところが、あまり、相互の関係について議論がなされることが多くなかったようである。それは、そもそも新株発行無効事由が広範に解釈にゆだねられている以上、ある意味仕方のないことかもしれない。また、有効説をとる論者の多くが、全ての無効原因について取引の安全を強調し有効と解し、他方、無効説の論者は、その多くが全ての無効原因について、株主保護の要請から無効と解するので、相互の関係は、一律に解するのが前提とされていたのかもしれない。
 だから、平成五年・六年判決の登場は、新株発行無効原因についての理論的整理が必要であることを示したのである。
 ところで、この点につき、近時、両判決を矛盾なく説明するために、次のような最高裁の態度に関する「仮説」が提唱されていた20。すなわち、最高裁は、新株発行における既存株主の利益保護につき、事前の手段である新株発行差止請求権を中心的手段として位置づけている、とするものである。確かに、この仮説によれば、両判決の関係を整合的に理解できる。そこで問題は、仮説の妥当性が検証されるかである。
 公示義務違反の新株発行の効力について、裁判所がどのように考えるかが右仮説の試金石である。本判決の原審が、平成六年判決のラインに従い、有効説を採用したところから、最高裁の態度が注目されていた。
 もし、公示義務違反について最高裁が、本判決の原審のごとく、有効説をとるならば、それは、最高裁が平成五年判決を事実上否定したことになる。なぜならば、会社が公示義務を怠ることにより、株主の差止請求権行使の機会を自由に奪うことができるからである。ところが、平成九年判決は、この問題について、前述のとおり、平成五年判決を引きつつ、折衷説を採用した。これは、仮説の妥当性を実証づけることである。
 つまり、最高裁は、事実上株主の保護を事前手段一本に絞っているということができる。
 このような最高裁の姿勢に対して、学説は批判的であり、むしろ株主の保護は事後的手段である新株発行無効の訴えを活用すべきであると主張する。すなわち、無効原因を拡大しようとするのである。確かに、新株発行の無効原因については、現行の解釈は狭きに失し問題がある。しかし、事後的手段を一切否定する趣旨でないとするならば、事前的手段を重視すること自体は妥当である。たとえば代表訴訟などにもいえることだが、従来、学説は、事後的手段にばかり目を向け、事前的手段にあまり目を向けていなかったようである。新株発行の場合でも、事前的手段の差止に実効性がないことを前提として、新株発行無効事由を広げることについて議論がなされてきたが、新株発行差止仮処分の実効性を強めることについては十分に議論が尽くされてきたとはいえない21。しかし、このような態度は妥当なものとはいえまい。その意味では、最高裁の姿勢は妥当と評することができる。
 事前的手段である新株発行差止請求権(実務上は仮処分によることになろう。)自体も、株主保護の見地からみて、事後的手段に比べて遜色ないものである。学説の中には、新株発行差止仮処分に対して懐疑的な主張もある。すなわち、差止仮処分は手続の性質上、緊急且迅速に手続をすすめなければならず、立証準備の逼迫性等の点で、株主の救済には十分でないというのである22。しかし、この批判は必ずしもあたらないと考える。たしかに新株発行差止仮処分は、仮処分である。しかし単なる仮処分でなく、本案の予定されない満足的仮処分であると解されている。満足的仮処分には、本案が予定されていないのであるから、その判断が終局的であるという点で、通常の裁判と変わりないのである。実際の運用をみても、満足的仮処分の場合、必要的債務者審尋が行われるので密行性がないし、また、立証についても、疎明で足りるとはいえ、証明に近い程度のものが要求されていると見てよいだろう。つまり、本案の審理と大差がないのである。事後的手段である新株発行無効の訴えについても、その無効原因の立証については、相当の困難が予想されるので、それに比べて事前手段たる新株発行差止仮処分が株主保護にとり劣っているということにはならないと思われる。無効原因について体系的整理ができていない現状では、差止仮処分を重視する最高裁の態度は比較的穏当であり、評価できるものと思われる。

四.  以上の検討から、本判決のとる折衷説に賛成する。公示義務違反の新株発行の効力は、差止事由がない場合を除くほかは無効と解すべきである。

 また、本件新株発行を無効とした結論も、以下の理由から妥当である。本判決が判旨(二)で指摘するとおり、もし平成二年改正後に本件新株発行の決議がされていたとすれば、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めのあるYの株主であるXらは新株引受権を有することになったはずである。従って、本件のような新株発行は、株主の新株引受権の無視として無効とされたはずである23。平成二年改正後とのバランスからいっても、本件新株発行は無効と解すべきである。
 譲渡制限会社の株主に新株引受権を法定した平成二年改正により、今後、かかる会社において、公示義務違反の新株発行が問題となる余地は少なくなった。ただ、前述のとおり、まだ譲渡制限規定を定款においていない閉鎖会社においては、依然として問題は残されている。
 今後は、公示制度を株主にとって使い勝手のよいものにするためにどのようにするか、議論が望まれる24。
(平成一〇年一一月二八日脱稿)





1 原審判決の評釈として、松嶋・司法研究所紀要第八巻一七一頁、居林次雄・金判一〇一一号四一頁、片木晴彦・私法判例リマークス一五号(平成八年)一〇七頁
2 本稿執筆時点(平成一〇年一一月二八日)において、本件判決は裁判所時報一二二三号一五頁以外の判例雑誌に掲載されていなかったので、公刊物からはこの点は確認できず、人を介して、実際に最高裁に問い合わせて、この判決が本件判決の原審であることを確認した。ちなみに、両判決は事件番号が異なる(本判決の事件番号は、平成八年(オ)第二八〇号、他方、前記東京高裁判決のそれは、平成六年(ネ)第三七四六号)が、そもそも事件番号は審級毎に異なるそうである。(地裁は(ワ)、高裁は(ネ)、最高裁は、(オ)である。)。この点の調査について、東京地方裁判所書記官古川良一氏のご協力を得た。ここに記して感謝する。
3 この判決の評釈として次のものがある。青竹正一・民商法雑誌一一七巻四・五号(平成一〇年)一五七頁(以下、「青竹・前掲評釈」として引用する。)、同・平成九年重判九五頁、栗山徳子・判タ九四八号一八二頁、近藤崇晴・法曹時報四九巻一一号(平成九年)三〇〇頁(以下、「近藤・前掲解説」として引用する。)、中東正文・法学教室二〇一号一一八頁、並木和夫・会社判例百選(第六版)一四一頁、山口和男・判タ九七八号一六六頁
4 河本一郎『現代会社法〈新訂第七版〉』(平成七年)二六九頁、森本滋「新株の発行と株主の地位」法学論叢一〇四巻二号(昭和五三年)一八頁
5 田中誠二『三全訂会社法詳論(下巻)』(平成六年)九七五頁、一〇一〇頁、坂本延夫「公示義務を欠く新株発行の効力−無効説の再論−」高窪還暦記念『現代企業法の理論と実務』(平成五年)二二六頁、味村治『改正株式会社法』(昭和四二年)一八二頁、坂田桂三『現代会社法(第三版)』(平成七年)五四一頁など
6 鈴木竹雄「新株発行の無効と差止」『商法研究V』(昭和五一年)二三五頁(初出・菊井献呈『裁判と法(下)』(昭和四二年))など。
7 吉本健一「新株発行の瑕疵を争う最近の事案」判タ九一七号(平成八年)一六二頁(以下、「吉本」として引用する。)。なお、同「新株発行の無効判断の根拠」菅原古希記念『現代企業法の理論』(平成一〇年)六七一頁以下参照。
8 下級審判例については、松嶋「公示義務違反と新株発行の無効原因」法学紀要四〇巻(平成一一年)掲載予定
9 東京地裁昭和四五年三月一七日判決(下民集二一巻三・四号四二四頁)、東京高判昭和四七年四月一八日判決(判タ二七九号二〇九頁、金判五一七号四二頁)、大阪地判昭和四八年一一月二一日判決(判時七三六号九二頁、金判三九五号一二頁)、東京地裁平成元年九月二六日判決(金判八四三号四三頁)
10 大阪高裁昭和四九年一一月二七日判決(金判四四六号一八頁)、名古屋地裁昭和五〇年六月一〇日判決(判例時報七九二号八四頁、金判五二九号二一九頁)、大阪高裁昭和五五年一一月五日判決(金判六二六号四〇頁)、東京地裁昭和五八年七月一二日判決(金判六九四号四二頁)、浦和地裁平成六年八月二六日判決(金判一〇〇四号一五頁参照)、
11 有効説が妥当でないことについては、本文のほかに、松嶋・前掲法学紀要を参照。
12 この判決の評釈として次のものがある。青竹正一・民商法雑誌一一四巻二号(平成八年)一三四頁、居林次雄・金判九六四号五〇頁、江川孝雄・山梨学院大学法学論集三六号(平成八年)二三四頁、柿崎榮治・法律のひろば四八巻八号(平成七年)四四頁、坂田桂三=松嶋隆弘・日本法学六一巻二号(平成七年)二〇七頁、酒巻俊雄・判タ九七五号一九一頁、塩田親文・私法判例リマークス一一号(平成七年)一〇九頁、柴田和史・判時一五三一号二一六頁、戸川重弘・富大経済論集四二巻一号(平成八年)一九五頁、西尾信一・銀行法務21 五〇二号七四頁、前嶋京子・下関市立大学論集三九巻二・三号(平成八年)一三二頁、前田雅弘・平成六年重判一〇一頁、山口和男・判タ八八二号二二〇頁、山下友信・会社判例百選(第六版)一四八頁、吉田直・青山法学論集三七巻一号(平成七年)一〇三頁、吉田正之・法学五九巻四号(平成七年)一五三頁など。
13この点については、すでに別稿において検討した。松嶋「商法上の差止仮処分の実効性について(一)」本誌六二巻三号(平成八年)(一)一六六頁。ただ具体的な理論構成については結論を留保している。
14 折衷説への批判とそれに対する反論については、青竹・前掲評釈一六六頁参照
15 青竹・前掲評釈一六七頁
16 近藤・前掲解説三〇六頁、なお前掲名古屋地裁昭和五〇年六月一〇日判決(判例時報七九二号八四頁、金判五二九号二一九頁)はこの立場に立つことを明示している。この判決の評釈として、坂本・金判四九〇号二頁。
17 青竹・前掲評釈六七九頁。
18 この判決の評釈として次のものがある。上原敏夫・判時一五〇六号二一四頁、大槁弘・ジュリスト一〇四七号八〇頁、同・『平成五年度最高裁判例解説民事編(下)』(平成八年)一〇一五頁以下、柿崎環・早稲田法学七一巻四号(平成八年)一七三頁、北村雅史・私法判例リマークス一〇号(平成六年)一二〇頁、小林量・商事法務一三四八号八頁、一三四九号一七頁、近藤弘二・法学教室一六五号一二〇頁、なお、同「新株発行差止の効力」西原追悼『企業と法下』(平成八年)一七三頁、坂田桂三=松嶋隆弘・司法研究所紀要第七巻(平成八年)一〇一頁、坂本延夫・平成五年度重判一一二頁、同・会社判例百選(第六版)一四六頁、西山芳喜・判タ九四八号一八五頁。なお、右最高裁判決の原審(大阪高裁昭和六三年一二月二二日判決・判タ六九一号二二〇頁)の評釈として、庵前重和・判タ七三五号二六二頁、新谷勝・金判八五九号四一頁
19 平成六年判決については、民集に掲載されていないところから、その先例的意味についてはやや問題もある。
20 吉本・前掲論文一五三頁
21 この点については、すでに別稿で検討した。松嶋・前掲「商法上の差止仮処分の実効性について(一)〜(三)」本誌六二巻三号(平成八年)一四七頁、六三巻二号(平成九年)九三頁、六四巻一号(平成一〇年)一一九頁を参照。
22 片木・前掲評釈一〇九頁
23 この点については、松嶋・前掲法学紀要を参照。
24 この点については、松嶋・前掲法学紀要を参照。