[論説] 株主総会決議の瑕疵と申告の効力に関する一考察
     〜法人税法七四条一項に規定する「確定した決算」の意義〜
日本大学法学部専任講師 松嶋隆弘
税理士・校友 松嶋康尚


[目次]

一.はじめに
二.法人税法七四条一項と「確定した決算」の意義
 1.確定決算基準
 2.法人税法七四条一項の立法経緯
 3.「確定した決算」の意義
三.株主総会決議の瑕疵と申告の効力
 1.問題の所在
 2.検討
四.確定決算の修正とそれに基づく申告の可否
五.結びにかえて




一.はじめに

 近時、株式会社法に関する商法の改正がたて続いている。平成一二年の会社分割法制の成立により、企業結合法制の整備がとりあえず整った現在、焦眉の改正事項は企業統治(コーポレート・ガヴァナンス)のあり方についてである。ただ、企業に関する法規制を考えるにあたっては、このような実体面からの検討だけでなく、税制の面からの検討が不可欠である。税制のあり方により実際の企業経営は大きく左右されるからである。その意味で(筆者を含め)商法、ことに会社法研究者が企業に関する問題を研究するにあたっては、税制面からの検討を欠かすことができない。
 しかし、筆者はこれまで右に述べた必要性は理解していたものの、商法上の諸問題の研究に当たり、税制面からの検討を十分にしてこなかった。幸い、今回尊敬する北野弘久教授の古希記念論文集に執筆の機会を与えられた。そこで、今回は商法と税法の接点に関する問題を選び、その関係を検討することにより、税制面からのアプローチを会得するきっかけとしたいと考える。
 さて、本稿においては、商法と税法の接点に関する問題の一つとして、株主総会の決議の瑕疵と申告の関係について考えてみることにしたい。商法は、株主総会の決議の瑕疵を争う手段として、株主総会決議取消の訴え(商法二四七条)、株主総会決議無効・不存在の訴え(同法二五二条)というメニューを用意する。これらの株主総会の決議の瑕疵を争う訴えも、合併無効の訴え(同法四一五条)等の他の会社訴訟と同様に、会社訴訟一般の規律に従う。すなわち、原告適格が法定され、出訴期間に一定の制約*1がなされるとともに、判決効についても対世効が規定される(同法四一五条三項、一〇九条一項)。ただ一つ、他の会社訴訟、例えば合併無効の訴えと大きく異なる点は、無効判決の遡及効を否定する規定が存在しないことである。これは、商法二四七条二項、二五二条がそれぞれ対世効に関する同法一〇九条を準用しながら、いずれも遡及効を否定する同法一一〇条を準用していないことの反対解釈として導かれる結論である。したがって、株主総会の決議が取り消され、または無効・不存在とされた場合、遡及的に株主総会決議はなかったことになる。
 この結論のもつ問題点については、つとに指摘がなされてきた。これまで、総会決議が遡って否定されたことにより、会社の相手方に生じる不都合を回避するためさまざまな主張がなされてきた*2。その主なものをあげると、例えば、決議の成立を前提として諸般の社団的・取引行為が進展する決議の遡及効を否定する見解*3、遡及効を前提とした上で、商法一四条、二六二条等の外観法理の活用を説く見解*4、事実上の取締役理論を適用する見解*5などである。
 では、株主総会の決議が取り消された場合、会社のなす申告の効力はどうなるのだろうか。この点に関し、法人税法七四条一項によれば、申告は確定した決算に基づきなすとされている。したがって、この問題を検討する前提としては、右の「確定した決算」の意味が解明される必要がある。そこで、本稿では、まず同法七四条一項の趣旨を説明し、その制定課程を明らかにした後、「確定した決算」について検討し、法人税法上の「確定した決算」を、株主総会で承認決議された決算と解すべきことを述べる。その後、右に掲げた問題について、裁判例を検討し、実務の動向を明らかにし、若干の検討を加えたい。すなわち、株主総会の決議が取消・無効とされた場合、商法上「確定した決算」は存在せず、その株主総会に提出された計算書類に基いて計算し提出した申告書は、「確定した決算」に基いて計算されたものではないことになるので、その申告の効力はどうなるのかについてである。その後、関連する問題として、商法上の「確定した決算」が修正された場合、それ以前の決算に基づいてなされた法人税の申告書も修正できるか否かについても検討する。

二.法人税法七四条一項と「確定した決算」の意義

1.確定決算基準
法人の申告に関し、現行法人税法七四条は、一項において「内国法人(略)は、各事業年度終了の日の翌日から二ヶ月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を税務署に提出しなければならない。(以下略)」と規定する。さらに同条二項は右申告に際し、貸借対照表・損益計算書などの書類を添付を要求する。この規定の意味は、一般に法人の申告が商法上の決算において計上された利益から誘導された所得の金額により行われるべきことを明らかにしているところにあると解されている*6*7。そして、これを確定決算基準*8という。
 確定決算基準の具体的内容については論者によって様々な説明がなされている。ただ、それらは詰まるところ、以下の三点にまとめることができる*9。

@.法人税の課税所得である各事業年度の所得の金額は、商法上の確定した決算に基づき計算されること(法人税法七四条一項)*10

A.課税所得計算において、会社の決算上、一定のものについては費用または損失として経理すること(損金経理・同法二条二六号)を要件とすること(例えば減価償却費(法人税法三一・三二条)等)

B.別段の定めがない限り、「一般に公正妥当な会計処理の基準に従って計算する」こと(同法二二条四項)

 確定決算基準には、次のメリット・合理性がある。すなわち、通常の業務による外部との取引等は検証力のある客観的証拠の存在が考えられるが、減価償却費・引当金等のいわゆる内部取引及び使用人兼務役員の使用人分賞与(法人税法三五条)等一部の外部取引については一般的に客観的な証拠の存在が考えられない。ところが、確定決算基準によれば、これらのものについて企業の自主的な意思決定を基礎として税法上の効果を付与することができる、と*11。
 そして、上記のような確定決算基準が採用されている理由としては、商法・企業会計原則等に立脚して計算された確定決算利益が一応適正なものと考えられ、この公表利益を基にして必要な修正を行うことが妥当であること、税法において修正部分だけ規定すればいいので簡便であること等が挙げられている*12。

2.法人税法七四条一項の立法経緯
 次に、右にみた確定決算基準がどのような経緯により採用されたのかにつき、これまでの立法経過をごく簡単にふりかえってみたい。
 現行法のように申告納税制度が採られ、確定申告書の提出を法人に課したのは、昭和二二年の税制改正からである*13。当時の法人税法の規定はつぎのとおりであった。
 第一八条「納税義務がある法人は、第二一条の規定に該当する場合を除く外、各事業年度終了の日から二箇月以内にその確定した決算に基き当該事業年度の普通所得金額、超過所得金額および資本金額を記載した申告書を政府に提出しなければならない。(第二項以下略)」
 その後この規定は、昭和二五年の改正において、概算申告制度の廃止、確定申告書の提出期限の延長制度の創設等による所定の整備を図るため、全面的に改正された。*14次のとおりである。
 第一八条「納税義務がある法人は、第一九条又は第二〇条の規定に該当する場合を除く外、各事業年度終了の日から二箇月以内に、その確定した決算に基き当該事業年度の課税標準たる所得金額及び積立金額並びに当該所得及び積立金に対する法人税額を記載した申告書を政府に提出しなければならない。但し、災害その他やむを得ない事由に因り決算が確定しないため、その提出期限までに申告書を提出できない場合においては、政府の承認を受け、その決算確定の日から二〇日以内に、これを提出することができる。(第二項以下略)」
 更に右規定は、昭和四〇年にその全文が改正され、前に掲げた現行法人税法七四条一項になった。ちなみに昭和四〇年改正は、法人税自体の内容には変更を加えず、@体系の整備、A表現の平明化、B規定の明確化を基本方針として全面改正した*15。

3.「確定した決算」の意義
 右に確定決算基準の内容とその制定の経緯について簡単に一瞥した。次に法人税法七四条一項にいう「確定した決算」の意義について確認することにしたい。一般に「確定した決算」とは、その事業年度の決算につき株主総会の承認、総社員の同意その他の手続きによる承認があったことをいうものと解されている*16*17。裁判例においても「「確定した決算」とは、法人がその決算に基づく計算書類につき、当該事業年度終了の日の翌日から二ヶ月以内に開催された株主総会で承認決議のあった決算をさすものと解される。」と述べたものがある*18。
 「確定した決算」に関しては、通達の変遷があり、過去において、いくつかの通達が「確定した決算」に関し、規定を設けていた。まず、それについて、みてみよう。
 第一に、昭和四〇年削除前法人税基本通達(以下旧法人税基本通達と言う)は、「確定した決算」について、次のように規定していた。

 法人税基本通達三一四
 「法第一八条又は第二一条に規定する「確定した決算」とは、その事業年度の決算につき、株主総会の承認又は総社員の同意その他これに準ずるものの承認があったことをいうのであるから、事業年度終了の日から二ヶ月以内に決算を確定して申告をなすべきものとする。」

 法人税基本通達三一五
 「法第一八条又は第二一条「その確定した決算に基く申告」とは、株主総会の承認又は総社員の同意を得た計算書類を基礎として申告するのであるから、申告に当っては次のようなことに注意しなければならない。
(一)資産の評価損益及び減価償却の金額は、原則として株主総会の承認又は総社員の同意を得た金額に限るのであるから、申告書においてその資産の評価損益及び減価償却の金額を増減することはできない。
(二)税務計算上繰延資産として整理することを認められているものについて、株主総会の承認又は総社員の同意を得た計算書類に資産として計上したときは、申告書において損金として所得金額から除算することができない。」
 
 第二に、「改正法人税法(昭和四〇年三月改正)等の施行に伴う法人税の取扱いについて(直審(法)八四昭和四〇年一一月三〇日通達)」も「確定した決算」について規定をおいていた。少し長くなるが引用しよう。

 「第3 所得金額の計算の通則関係
 (企業利益と課税所得との関係に関する基本原則)
 一〇.法人は、各事業年度ごとに、税務署長に対し、確定した決算に基づき所定の事項を記載した申告書を提出しなければならないが、この「確定した決算に基く申告」とは、次のことを表明したものであることに留意する。

(1).法人税の申告は、法人が、その決算に基づく計算書類につき株主総会の承認、総社員の同意その他の手続による承認を得た後、その承認を受けた決算にかかる利益の計算に基づいて税法の規定により所得の金額の計算を行ない、その所得の金額および当該利益の計算と当該所得の金額の計算との差異を申告書において表現するものであること。

(2).法人の利益の計算に関する事項(税法が所得の金額の計算上特別の定めをしているものを除く)について、商法その他法人の計算に関する法令の規定および一般に認められた適正な企業会計の原則により利益の計算上妥当と認められ、かつ、所得の金額の計算上も合理的と認められる方法(利益の計算上妥当と認められる方法で、その方法による計算につき法人が一定の申告調整をすることにより所得の金額の計算上も合理的と認められるにいたるものを含む)が、二以上ある場合において、法人が当該事項につき(1)の承認を受けた利益の計算において適用している方法がそれらの方法のうちいずれか一の方法であるときは、当該事項については、所得の金額の計算上も当該法人が適用しているその方法が適用されるべきものであること。(以下略)」
 これらの通達は現在では廃止されている。ただ、これらの通達を廃止した経緯に関し、現行法人税基本通達は、その前文において、「法人税基本通達の制定について」と題し、次のように規定する。すなわち、「従来の法人税通達の規定のうち法令の解釈上必要性が少ないとみとめられる留意的規定を積極的に削除し、また、適正な企業会計慣行が成熟していると認められる事項については、企業経理にゆだねることとして規定化を差控えることとした。」と。したがって、このような経緯に鑑みると、右にみた通達が廃止された現在においても、「確定した決算」とは、株主総会等で承認決議のあった決算をいうと解して差し支えないものと思われる。
 ちなみに、昭和五六年の商法改正によって、大会社(資本金が五億円以上または負債の合計額が二〇〇億円以上の株式会社)については、会計監査人及び監査役の適法意見が付されたときは、当該計算書類については株主総会の承認は要せず、報告をもって足りることとされた(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律一六条)。この場合の株主総会で報告された当該計算書も確定した決算によるものとして取り扱われる。ただし、税務上においては、利益処分による準備金の繰入(租税特別措置法第五五条)等に係る損金算入も考慮し、その利益処分等を承認した株主総会終結の日を決算確定の日とするものとされている。*19

三.株主総会決議の瑕疵と申告の効力

1.問題の所在
 ここまでの検討で、法人税法上の「確定した決算」を、株主総会で承認決議された決算と解すべきことがわかった。ただ、このように解した場合、次の問題が出てくる。すなわち、株主総会の決議が取消・無効とされた場合、商法上「確定した決算」は存在しないことになるため、その株主総会に提出された計算書類に基いて計算し提出した申告書は、「確定した決算」に基いて計算されたものではなくなり、その申告の効力はどうなるのか、と。
 この点については、実務上、「確定した決算」に基かない申告の効力を無効とする考え方と、逆に有効とする考え方とがありうる。以下実務上の取扱に即して、両説を紹介しよう。
 まず無効説に立脚するものとしては、旧法人税基本通達三一六による従来の税務上の取扱をあげることができよう。ちなみに、旧法人税基本通達三一六は、次のように規定する。
 
 法人税基本通達三一六
 「確定した決算に基かない申告書を提出した場合には、法第一八条又は第二一条の規定による申告書とはならないのであるが、当分のうちその申告書提出後その計算について株主総会の承認又は総社員の同意を得た旨を所轄税務署長に届け出たときは、法第一八条又は第二一条に規定する申告書の提出があったものとみなす。」
 この通達の取扱いは「確定した決算」に基かない申告は無効であるとしながらも、実務上の調整を図ったものであると評価できる。ちなみに、この通達も、前記に掲げた通達と同じく、昭和四〇年の改正により廃止された。その理由は、あまりにも当然のことであるからとのことである。
 しかし、税務当局の「あまりにも当然のこと」との判断とは逆に、裁判例は、いずれも確定申告を有効と解した。以下、それらついて紹介する。

@.名古屋地裁昭和四〇年二月二七日判決(行集一六巻二号一八六頁、税務訴訟資料四一号一七〇頁、訟務月報一一巻八号一二四二頁)*20
 「被告は、訴外会社の納税申告は、株主総会の承認を得ていない決算書に基くものであるから不適法である旨主張するが、法人税法が納税申告につき確定した決算(本件の場合株主総会の承認を得た計算書類)によるべきことを要求するのは、申告の正当性を確保するためであるが、被告はこれに拘束されるものではなく、独自に職権調査を行ない、正当な所得および税額を算定し得るものであるから(法人税法第三一条、国税通則法第二四条参照)、被告の右主張は理由がない。」

A.名古屋高裁昭和四二年一〇月九日判決(税務訴訟資料四一号四九五頁)は、右@事件の控訴審であるが、やはり@と同旨で原審判決を引用している。

B.東京地裁昭和五四年九月一九日判決(税務訴訟資料一一二号一二六九頁、判例タイムズ四一四号一三八頁)
「ところで弁護人は、被告会社においては商法二八三条所定の株主総会における計算書類の承認手続は全く行なわれていず、単に、被告会社の顧問税理士が申告書とともに貸借対照表、損益計算書を作成して、直ちに被告人Xにこれを示して同人の諒承を求め同人の押印を得て申告書を提出しただけであるから、企業の意思すなわち株主の意思は明確でなく、寧ろ「確定した決算」なるものは全く存在していなかった旨主張する。
 しかしながら、法人税法が確定決算の原則(法七四条一項)を導入している所以は、課税所得については会社の最高の意思決定機関である株主総会の承認を受けた決算を基礎として計算させることにより、それが会社自身の意思として、かつ正確な所得が得られる蓋然性が高いが故であるという趣旨に鑑みれば、たとえ商法上の確定決算上の手続に依拠せず、従って商法上は違法であるとしても、確定申告自体が、実質的に、法人の意思に基づきなされたものと認められる限り、税法上は法七四条に基づく有効な申告として扱うものと解するのが相当である。」
 この他に、申告の効力が直接の争点となったものではないものの、傍論として有効説を述べている裁判例として、以下のようなものがある。

C.最高裁昭和五二年二月一四日判決(訟務月報二三巻三号五七〇頁)*21
 これは清算人の第二次納税義務が争われた事案で「原審の認定した事実関係のもとにおいては、原判示の会社解散及び清算人選任の株主総会の決議が存在しなかったものということはでき」ないと判示したものである。そして、この判決の原審である大阪高裁昭和五一年六月一五日判決(訟務月報二二巻六号一六九六頁)においては「いわゆる一人会社的色彩が濃く、所定の手続を経て正規の株主総会を開いたこともない会社であるから、正規の手続を経たものでなくても、実質上の株主三名が出会い、出資の大部分を占めるXの意見に従い三名の合致する結論が出された以上、解散、清算人の選任、本店の移転に関する訴外会社の臨時株主総会が開かれ、過去に決議がなされたものと云うべきである。」と判示し、株主総会決議不存在を認定し当該清算人は第二次納税義務を負わないとした第一審である大阪地裁昭和四七年三月二八日判決(判例時報六八一号三二頁)*22を取消している。

D.最高裁昭和五七年一一月九日判決(税務訴訟資料一二二号一頁、シュトイエル二四〇号二一頁)*23
 これは、帳簿書類等を押収され、決算が確定できないため「概算の決算に基づく申告で、押収されている書類が将来返還された場合、修正申告等がなされると予想される」旨の書面を添えて提出した「仮申告書」の効力について、「所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び説示に照らし、正当として是認することができ」るとして、有効な確定申告であるとした判決である。ちなみに、原審である大阪高裁昭和五三年六月二九日判決(行集二九巻六号一二三〇頁、訟務月報二四巻一〇号二一四九頁)*24では次のように判示し、第一審である和歌山地裁昭和五二年七月一一日判決(行集二八巻六・七号六〇七頁、訟務月報二三巻八号一五一七頁)*25を取り消した。
 「被控訴人が控訴人に提出した昭和四七年度分の「仮申告書」及び昭和四八年分の「確定申告書」は、前者が「仮」申告書と表示されている点を除けば、いずれも法人税法施行規則に定められた法人税確定申告書の書式を用いて、法人税法七四条所定の記載事項が記載されている、適式の確定申告書であり、その内容の点でも、申告者である被控訴人において、帳簿類等が押収されていて正確な決算ができない事情にあったとはいえ、可能な限りでの決算資料に基づいて算出計上した概算の決算に基づく数字を記載し、可能な範囲の必要書類を添付したものであるということができる。また、被控訴人が右各申告書を提出するについては、これを提出しない場合に無申告として取り扱われ不利益な決定を受けることを避けようとする意図があったことは明らかであるが、そればかりでなく、右各申告書によって、その時点での各年度分の税額を確定して還付金の還付を受ける意図を有していたものとみうることも明らかであり、さらに、将来、決算資料の押収が解かれるなどすることによって決算の誤りが判明したときは、右各申告書を基礎としつつ修正申告や更正の請求等の所定の手続をとることをも意図していたことが明らかである。(中略)そうすると、右各申告書の提出は、いずれも、被控訴人が当該年度分についての法人税の確定申告をする意思に基づいて適式にしたものであり(前記のような概算の決算に基づく確定申告も法の許容する適法な申告とみうることは、国税通則法施行令六条一項三号の規定に照らして明らかである。)、控訴人においてもこれを右の趣旨の申告書として受理したものということができ、有効な確定申告というべきである。昭和四七年度分について、法人税法上は存在しない「仮申告書」の表示が付されていることをもって、これを無効のものと解すべき理由もない。」

E.このほかにも、裁決例として、株主が一堂に会して株主総会が開催されなかったとしても、請求人のように役員が九〇パーセント以上の株式を有している同族会社において、当該役員により作成された議事録は、実質的に株主総会が開催され、決議が行なわれた上で作成されたものとみるべきであり、過大な役員報酬の判定はこの議事録に基づいて行うのが相当であるとしたものがある*26。
 以上のように裁判例においては「確定した決算」に基づくことは、申告の要件ではなく、「申告の正当性を確保するため」あるいは「正確な所得が得られる蓋然性が高い」ためであるとしている。そしてBの判決においては「確定申告自体が、実質的に、法人の意思に基づきなされたもの」であれば有効な申告であるとして、納税者である法人の意思を重視している。

2.検討
 思うに、法人税法七四条一項が「確定した決算」に基づく申告を要求している以上、株主総会の決議が取り消され、「確定した決算」がなくなった場合、申告は無効になると解することは可能であろう。その意味では、無効説に立脚する前記通達は、同項の形式的な解釈として、理解することはできる。
 しかし、そもそもなぜ申告について「確定した決算」、すなわち株主総会で承認決議された決算に基づいてなすべきなのか、その根拠を明らかにしなければ無効説は必ずしも説得力を有しない。すでに述べたとおり、確定決算基準の根拠は、減価償却費・引当金等のいわゆる内部取引や使用人兼務役員の使用人分賞与(法人税法三五条)等一部の外部取引のような、客観的な証拠の存在が考えられないものについて企業の自主的な意思決定を基礎として税法上の効果を付与することができる、というところにある。つまり、あくまでも税務処理の便宜上株主総会で承認決議された決算と申告とをリンクさせているにすぎないのである。むしろ右確定決算基準の根拠として重要なのは、「企業の自主的な意思決定を基礎として税法上の効果を付与することができる」という箇所であろう。
 そうであるとすれば、税務申告を株主総会の決議の瑕疵という商法の解釈の問題にまでリンクさせる実質的な必要はないと解される。すなわち、実質的に法人の意思による申告がある限り、たとえ株主総会の決議が取り消され、正規の株主総会による承認が遡及的になかったことになったとしても、その申告を尊重し有効とするという判断も十分に成り立つと考える。前記の裁判例もそのような価値判断に立つものであり、是認できよう。
 また、有効説は、我が国における株式会社の大部分を占める中小会社の実態に即している*27。このような中小規模の会社においては、商法の規定にもかかわらず、商法上の正規の株主総会の手続・承認がなされず、代表者のみによって決算が組まれ、それに基づき法人税の申告書が提出されている場合が多いのが実情である。無効説にたつと、大多数の株式会社の申告を原則として無効と取り扱うことになってしまう。このような認識は、前提として問題であるように思われる。それに、そもそも実際問題として、課税庁側が株主総会の決議が正規の手続によって行なわれたかについて調べることは、会社組織の変更、多額の増資・減資等特別の事情がない限りあまりないように思われる。また株主総会の決議に瑕疵があったとしても、今までの税務上の裁判例からすれば、申告の効力に影響はないものとされ実益もないように思われる。
 その他にも、無効説には、次のような問題がある。すなわち、無効説によれば「確定した決算」に基かない申告は不適法であり、無申告であるとされる可能性がある*28。加えて、そうすると、提出した申告書は申告書以外の書類となり、納付された法人税は誤って納付されたものとなり、その結果無申告加算税(国税通則法六六条)が課されることになってしまう*29。この結論は決して合理的とはいえまい。
 以上の検討から、私はこの問題については、有効説が妥当であると考える。

四.確定決算の修正とそれに基づく申告の可否

 次に商法上の「確定した決算」が修正された場合、それ以前の決算に基づいてなされた法人税の申告書も修正できるか否かについて検討する。商法上適法な手続・方法によって承認決議がなされたとき、その後の株主総会でその承認決議を修正することの可否については、修正することを認める見解*30と認められないとする見解*31とがある。これらの説のいずれが妥当かについての検討は、本稿の射程を超える問題である。ただ、法人税法七四条一項の「確定した決算」を株主総会等の承認があった決算であるという前提に立ち、前説をとる場合、かかる修正が法人税法上も認められるかが問題となりうる。そこで、株主総会決議の瑕疵と申告の効力に関連してこの問題について、以下若干の検討を加えたい。
 まずこの問題に関する裁判例を紹介する。

F.大阪地裁昭和六二年九月一八日判決(税務訴訟資料一五九号六三八頁、シュトイエル三一〇号二〇頁)*32
 「法は、法人税につきいわゆる申告納税制度を採用し、内国法人の確定申告について、各事業年度終了の日から二か月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき申告書を提出しなければならない旨規定しており(法七四条一項)、この「確定した決算」とは、法人がその決算に基づく計算書類につき、当該事業年度終了の日の翌日から二か月以内に開催された株主総会で承認のあった決算を指すものと解される。そして、国税通則法は、確定申告書記載事項の過誤の是正につき特別の規定を設けている(同法一九条、二三条参照)。このように、法人税が申告納税制度を採用したゆえんは、法人税の課税標準等の決定は最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前とすることが、租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるものであり、納税義務者に対しても過当な不利益を強いるおそれがないと認めたからにほかならない。したがって、確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、前記租税法規の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは、許されないものといわなければならない(最高裁昭和三八年(オ)第四九九号同三九年一○月二二日第一小法廷判決・民集一八巻八号一七六二頁参照)。そして、前記役員退職給与の損金算入にみられるように、法人税法は、課税所得の計算原理ないし計算方法のかなりの部分につき確定決算基準を採用し、経理につき法人に選択の余地を認めていることに照らせば、右錯誤の主張を認めるべき特段の事由がある場合とは、株主総会の決議の無効もしくは取消の確定判決に基づく決算の変更または行政官庁の命令等による決算の変更があった場合など、当該法人の意思に基づかない外部的事情により決算が変更された場合に限定されるものと解するのが相当である。」
 以上のとおり、裁判例は、決算の修正が認められる場合を「当該法人の意思に基づかない外部的事情により決算が変更された場合に限定される」とする。
 確かに、決算修正をしなければならない場合も実際上ありうるであろう。だが、法人税法上容易に変更をなしうるということは、租税収入の安定を害するので好ましくない。変更を認めるとしても、一定の制約が必要と考えられる。そして今日の中小企業の大部分では株主総会が形骸化していること、そのような中小企業においては決算修正の形式を整えるのは非常に容易であることを考えると、右制約はある程度厳格でなければならない。現に商法上決算の修正が認められるとする見解も、「違法な、または正当でない点が発見されたとき」は、前の承認決議を撤回し、修正して、再度承認決議をすることができるとして、一定の歯止めをかけようとしている*33。
 以上のところから、、私は、自由に決算の修正を認めるのは好ましくないが、決算を修正しなければならない正当な理由がある場合にかぎっては法人税法上も認められる場合もあるのではないかと解する。ただ、この点については決算の修正をしなければならない個々の事例ごとに考慮しなければならず*34、今後の実務の集積が待たれる。

五.結びにかえて

 これまでの検討をまとめると、本稿の結論としては、商法上株主総会の決議に瑕疵があり、決議が取り消されたとしても、会社のなした申告自体は有効であること、商法上の「確定した決算」が修正された場合、それ以前の決算に基づいてなされた法人税の申告書も修正できる場合がありうることの二点となる。ただ、右のいずれも「確定した決算」の意義について、株主総会で承認決議された決算とする前提にたった上での結論である。ただ、そもそも「確定した決算」の意義については、立法論的解決も必要なのではないかという指摘もなされており、*35本来ならばより詳細な検討が望まれる。この点については今後の課題としたい。





*1ただ株主総会決議無効・不存在の訴えについては、出訴期間の制限がない。
*2学説の詳細については、坂田桂三『現代会社法(第四版)』(平成一一年)三六一頁を参照されたい。
*3石井照久『会社法上』(昭和四二年)二八五頁
*4坂田・前掲書三六一頁
*5石山卓磨『事実上の取締役理論とその展開』(昭和五九年)一六三頁以下、二六四頁をそれぞれ参照。
*6武田昌輔『立法趣旨 法人税法の解釈』(平成一〇年)四二八頁
*7このような見解に対し,法人税法七四条一項は,課税所得算定方法そのものについての規定ではなく,課税所得算定が企業会計の基礎の上に立つことを,算定の基礎となる計算書類の面から規定した,申告方法についての手続的な規定であるとする見解もある(中里実「企業課税における課税所得算定の法的構造(五・完)」法学協会雑誌一〇〇巻九号(昭和五八年)一五五七頁、同「金融取引と確定決算主義」税研八六号(平成一一年)一〇三頁)。
*8確定決算基準はこの他に確定決算主義・確定決算原則等とも呼ばれているが,本稿においては,以降確定決算基準と呼ぶことにする。
*9税制調査会法人課税小委員会「法人課税小委員会報告」(平成八年一一月)第一章「基本的考え方」四「課税ベースの拡大と税率の引き下げ」3「商法・企業会計原則との関係」、吉牟田勲「確定決算主義―最近の批判的論文を中心に―」日税研論集第二八号(平成六年)二六二頁等
*10課税所得を会社決算の企業利益から誘導して計算するので誘導原則と呼ばれる。(吉牟田勲『新版法人税法詳説―立法趣旨と解釈―平成一〇年度版』(平成一〇年)三〇頁)
*11北野弘久『現代企業税法論』(平成六年)一三四頁
*12吉牟田・前掲書三八頁、北野弘久編『現代税法事典[第二版]』(平成四年)一一四頁[吉牟田勲執筆]
*13確かに、昭和二二年改正より前にも税務官庁の人員不足を緩和すること等から昭和二〇年臨時租税措置法の改正に際し,所定の法人について決算確定後六〇日以内に法人税等を自ら算定し,納付させる制度をしたこともあった。しかし、法人は、毎事業年度の所得金額を自ら計算・申告し納付するというものの、その実体はその申告によって納税義務が確定するというものではなく、その後の税務官庁の賦課決定により納税義務が確定するものであった。つまり当時「申告納税制度」と呼ばれてはいたが、実際は「申告予納制度」であった(吉国二郎総監修『戦後法人税制史』(平成八年)三一頁、三四頁[市丸吉左エ門執筆])。したがって、現在のような申告納税制度が採られたのは昭和二二年改正からとみてよいだろう。
*14吉国・前掲書九八頁[市丸吉左エ門執筆]
*15吉国・前掲書三八九頁[武田昌輔執筆]
*16北野弘久編『現代税法講義[三訂版]』(平成一一年)九三頁[北野弘久執筆]、石山弘編『平成一二年版 回答事例による法人税質疑応答集』(平成一二年)一二一六頁、中村忠=成松洋一『税務会計の基礎―企業会計と法人税―』(平成一〇年)一二一頁、武田昌輔『会計・商法と課税所得』(平成五年)九頁、忠佐市『租税法要綱[第十版]』(昭和五六年)二〇九頁、中村利雄『法人税の課税所得計算―その基本原理と税務調整―<改訂版>』(平成二年)一六八頁、矢沢惇『企業会計法講義〔改訂版〕』(昭和四八年)二三頁等
*17法人税法上の「確定した決算」をこのように解することに対して,法人税法にいう「確定した決算」とは,法人税法上の税務調整を加えることのみによって,直ちに,確定申告の内容を形成しうる程度に確定性をもつものとして作成された決算という実体法的な概念であって,形式上の手続法的な概念ではないという見解もある。(酒巻俊雄=新井隆一『商法と税法―その接点の解明―』(昭和四一年)一三六頁下段、新井隆一「公正なる会計慣行と法人税法」企業会計二九巻七号(昭和五二年)一〇頁、新井隆一「企業経理における税務調整の前提問題」企業法研究一三七輯(昭和四一年)三〇頁)
*18大阪地裁昭和六二年九月一八日判決(税務訴訟資料一五九号六三八頁,シュトイエル三一〇号二〇頁)
*19石山編・前掲書一二一七頁,中野百々造『改訂三版 会社法務と税務』(平成一二年)四七頁
*20本判決の評釈として、清永敬次・シュトイエル五二号(昭和四一年)二三頁
*21本判決の評釈として,加藤一昶・税理二一巻一二号(昭和五三年)一五三頁
*22本判決の評釈として,木下良平・税務事例五巻二号(昭和四八年)四頁
*23本判決の評釈として、岸田貞夫・税務事例一六巻九号(昭和五九年)一二頁
*24本判決の評釈として,岸田貞夫・ジュリスト六九四号(昭和五四年)一三四頁
*25本判決の評釈として,荻野豊・税経通信三二巻一三号(昭和五二年)一七七頁,相澤英孝・ジュリスト六六七号(昭和五三年)一三一頁,碓井光明・自治研究五五巻四号(昭和五四年)一一七頁
*26平成五年四月一九日裁決(裁決事例集第四五集二一三頁)
*27中村=成松・前掲書一三三頁,宮野清「株主総会の承認を得ていない決算書に基づく法人税申告書の効力」税務事例一九巻四号(昭和六二年)一三頁、清永敬次『税法(第五版)』(平成一〇年)一一六頁注(1)は、「確定決算とは、株主総会などで承認された決算をいう。しかし、株主総会などで正式に承認の手続が取られていないときでも、法人が正規の決算と考えているものも含まれる。」としている。
*28中村=成松・前掲書一三二頁
*29石山弘編・前掲書一二一六頁
*30大森忠夫=矢沢惇編『注釈会社法(6)株式会社の計算』(昭和四五年)四二頁[服部榮三執筆]、松田二郎=鈴木忠一『條解株式会社法(下)』(昭和二七年)三九八頁、高田桂一「計算書類承認決議取消と既往関係の処理」企業法研究二一九輯(昭和四八年)二一頁
*31上柳克郎=鴻常夫=竹内昭夫編『新版注釈会社法(8)株式会社の計算(1)』(昭和六二年)八二頁[倉澤康一郎執筆]
*32本判決の評釈として,品川芳宣『重要租税判決の実務研究』(平成一一年)二二九頁
*33大森=矢沢・前掲書四二頁[服部榮三執筆]、松田=鈴木・前掲書三九八頁、高田桂一・前掲論文二一九輯二一頁
*34中村=成松・前掲書一三一頁、岸田貞夫『現代税法解釈』(平成四年)三一二頁は、「訂正内容が明らかな計算誤りや誤謬の係るものを是正しようとする場合のように、計算書類の訂正内容が恣意的ではないと認められるときは、それに基づく申告及び適法な更正の請求を認めるべきではないか。」としている。
*35藤曲武美「確定した決算の意義と申告の効力」税研八七号(平成一一年)一〇六頁
Note