[判例研究] 新株発行不存在確認の訴えと商法280条ノ15の出訴期間の制限(積極)
日本大学法学部助教授  松嶋隆弘



(高松高判平成12年1月20日判時1720号167頁)

【事実】

 Y(被告・被控訴人)は、Aが中心となって昭和25年11月21日に設立された株式会社である。Yは、設立後、順次、新株を発行して増資するとともに、発行する株式の総数も増加し、昭和57年7月当時、発行する株式の総数は60万株、発行済株式の総数は額面普通株式15万株(1株の金額100円、資本の額1500万円)であった。Aは、Yの設立以来、その株主であり、かつ、代表取締役であった。
 Yは、平成元年8月12日の取締役会で、額面株式3万株の新株を発行し一般公募の方法により割り当てる、発行価額は1株100円とし払込期日を同月29日とする旨決議し、B(BはAの子である。)が2万5000株を、Bの妻であるCが5000株をそれぞれ引き受けて右期日に払込を了したとして、発行済株式の総数が15万株(資本の額が1500万円)から18万株(同1800万円)に変更された旨の登記を受けている(以下「元年の新株発行」という。)。
 Yは、平成2年9月30日の取締役会で、額面株式7万株の新株を発行し一般公募の方法により割り当てる、発行価額は1株100円とし払込期日を同年11月7日とする旨決議し、Bが5万株を、Cが2万株をそれぞれ引き受けて右期日に払込を了したとして、発行済株式の総数が18万株(資本の額が1800万円)から25万株(同2500万円)に変更された旨の登記を受けている(以下「2年の新株発行」という。)。
 Aは、平成4年11月12日、右2回の新株発行の不存在の確認を求める本件訴えを提起したが、原審係属中の平成8年10月10日死亡し、相続人(子)であるX1X2(原告・控訴人、ちなみにX1はYの取締役)がAの株式を相続して訴訟を承継した。なお、Yの代表者Bは、Yの取締役であるX1との関係では株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律24条により取締役会が定めた者として、取締役でないX2との関係では代表取締役としてYを代表する。
 原審は、Xの請求を棄却し、Xらが控訴。

【判旨】

 「商法は、特別の訴えとして、新株発行無効の訴えを認め、その訴訟要件、判決の効力を明文で規定している(商法280条ノ15以下)。これによれば、新株発行無効の訴えは、新株発行の日から6箇月内にのみ(同条1項)、株主、取締役又は監査役に限り(同条2項)、会社を被告として提起することのできる形成の訴えであり、新株発行を無効とする判決は第三者に対してもその効力を有するが(同法280条ノ16において準用する109条1項)、新株は将来に向かってのみその効力を失う(同法280条ノ17第1項)のである。商法が、このように、出訴期間及び原告適格を制限するとともに(なお、被告適格に関する明文の規定はないが、判決に対世効を認める以上、当然、当該株式会社だけに被告適格があると解すべきである。)、認容判決に対世効を認めるが遡及効は否定する特別の訴えを創設した趣旨は、新株発行が会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があるために、新株発行に無効原因がある場合であっても、その新株発行を前提として形成されていく新たな法律関係をいつまでも覆し得ることとし、あるいは遡及して覆し得ることとするのは相当でなく、また、認容判決の効力が訴訟当事者間においてのみ相対的に生ずるとするのも相当でないことから、新株発行に伴う法律関係を早期かつ画一的に確定することにあると解せられる。

2 商法は右のとおり、瑕疵のある新株発行について、これを形成的に無効とする特別の訴えを創設しているが、本件のような新株発行不存在確認の訴えについては何ら規定していない。しかしながら、新株発行の無効というのは、論理的に、新株発行が存在していることが前提となるが、効力を論ずる以前に、そもそも新株は発行されていない。すなわち不存在であるにもかかわらず、新株発行の登記(商法188条3項、67条、商業登記法82条)がされているなど、あたかも新株発行がされているかのような何らかの外観が生じていることがあり得るのであって、このような外観がある場合には、新株発行の不存在を主張する者が、新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効のある判決をもってその不存在の確認を得る必要があることを否定することができないから、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行の不存在についても、新株発行無効の訴えに準じて、その旨の確認の訴えを肯定するのが相当である。そして、新株発行不存在確認の訴えは、明文の規定がないのに新株発行無効の訴えに準じて認められるものであり、しかも判決に対世効という強い効力があることを認めるものであるから、出訴期間についても新株発行無効の訴えに準ずるのが当然というべきである(このように解しても、@新株発行不存在確認の訴えには、無効事由が存在するにすぎないのに、出訴期間が経過しているため、発行手続等の瑕疵が著しく不存在と評価すべきであるなどとして提起されるものが少なくないこと、A出訴期間経過後であっても、新株発行の存否が前提となる訴訟において、その不存在を主張できること(ただし、その訴訟の判決に対世効はない。)からして、不存在を主張する者の保護に欠けるわけではなく、かえって、出訴期間の制限がないとすれば、新株発行に伴う法律関係の安定が著しく損なわれるというべきである。)。したがって、本件訴えは、それ自体は肯定されるものではあるが、元年の新株発行の登記がされた日から3年余り後、2年の新株発行の登記がなされた日から2年余り後の平成4年11月12日に提起されたものであるから、出訴期間経過後の訴えとして不適法というべきである。」

【解説】 判旨に反対

一. 新株発行不存在確認の訴えについては、その法的性質、要件、効果などについて、学説上十分な議論がなされてきたとはいえない。そのため、この訴えについては不明確な点が多い。具体的にいうと、そもそも新株発行不存在確認の訴えが認められるのか、認められるとしてその法的性質は何か、いかなる場合に新株発行が「不存在」といえるか、原告適格、被告適格、認容判決に対世効はあるのか、出訴期間に制限があるのか、などといった点である。新株発行不存在確認の訴えに関しては、近時、会社のみに被告適格があるとした最高裁判決(最判平成9年1月28日民集51巻1号40頁 以下「平成9年判決」という*1。)が出された。ただ、平成9年判決は、被告適格を否定して請求を却下したものにすぎない。単に、出訴期間の有無などの訴訟法上の問題点を指摘しつつ、その中の被告適格の点についてのみ結論を示しているに留まっている。したがって、いかなる場合に新株発行が「不存在」といえるかにつき、実体法上の判断をしたものではない。その意味では、新株発行不存在確認の訴えについての、最高裁の判断が示されたとはいいがたい。だが、この判決により、従来議論されなかった問題の所在が明らかになったとはいえた。このような状況の中で、本判決は、出訴期間の有無に関し、これを肯定した。今後議論を呼ぶことは間違いない。

二.1. 新株発行の瑕疵に対する現行法の対応は、株主総会決議の瑕疵の場合とは対照的である。すなわち、株主総会の決議の瑕疵を争う手段としては、決議取消の訴え(商法247条)のみならず、決議無効・不存在確認の訴え(252条)が商法典に規定されている。これに比べ、新株発行の瑕疵を争う手段として、商法は、新株発行無効の訴え(280条ノ15)について規定するのみである。新株発行不存在確認の訴えについては何ら規定がない。そこで、そもそもこのように条文にない新株発行不存在確認の訴えを認めることができるかが問題となる。
 この点につき、直接言及した裁判例は、平成9年判決の登場までなかった。これまで新株発行不存在確認の訴えが争点となった判決は、公刊物でみるかぎり五件ほど(福岡高裁昭和30年10月12日判決(高民集8巻7号535頁)*2、最高裁昭和53年3月28日判決(裁判集民事123号307頁、判時886号89頁、金判545号21頁)、名古屋地裁昭和59年6月22日判決(判タ533号246頁)、東京高裁昭和61年8月21日判決(判時1208号123頁、金判756号3頁)*3、最高裁平成4年10月29日判決(裁判集民事166号477頁、金判921号18頁、判タ815号137頁)*4)ある。だが、それらの中に、新株発行が「不存在」であるとしたものはない。
 他方、学説についてみてみる。この点については、従来あまり論じられていなかったので、はっきりしない。だが、新株発行の瑕疵が著しい場合、すなわち新株発行の実体がなく、単に新株発行による変更登記(188条2項6号、3項)があるに過ぎない場合*5は、新株発行は不存在であり、新株発行無効についての商法280条ノ15の適用はなく、新株発行不存在確認の訴えを提起できるとして、新株発行不存在確認の訴えを認めることに異論がないようである*6。その理由としては、株主総会の決議の瑕疵について、その瑕疵が著しい場合には、従来、明文がなくとも株主総会決議不存在確認の訴えが認められると解されてきたこと*7、新株発行無効の訴えの出訴期間が六ヶ月に制約されているので、新株発行不存在確認の訴えを認めることにより、著しい瑕疵については右出訴期間経過後でも、是正を求めることができること、などがあげられている。

2. このような状況において、平成9年判決が登場した。ここで平成9年判決について、ごく簡単に紹介する。
平成9年判決は、小規模の同族会社(A)内におけるX・Y間の支配権争奪の手段としてなされた昭和54年の新株発行の効力が争われた事案である。ただ、この事件では、XはAでなく、Yを被告として新株発行不存在確認の訴えを提起した。ここで平成9年判決の判旨を引用する。
 「商法上の特別の訴えとして、同法280条ノ15以下に規定されている新株発行無効の訴えは、新株発行の日から6箇月内にのみ(同条1項)、株主、取締役又は監査役に限り(同条2項)、会社を被告として提起することのできる形成の訴えであり、新株発行を無効とする判決は第三者に対してもその効力を有するが(同法280条ノ16において準用する109条1項)、新株は将来に向かってのみその効力を失う(同法280条ノ17第1項)。商法が、このように、出訴期間及び原告適格の制限があるとともに、認容判決に対世効がある一方で遡及効はない特別の訴えを創設した趣旨は、新株発行は、会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があるために、新株発行に無効原因がある場合であっても、その新株発行を前提として形成されていく新たな法律関係をいつまでも覆し得ることとし、あるいは遡及して覆し得ることとするのは相当でなく、また、認容判決の効力が訴訟当事者間においてのみ相対的に生ずるとするのも相当でないことから、新株発行に伴う法律関係を早期かつ画一的に確定することにあると解される。
 商法は、このように新株発行無効の訴えを創設しているが、新株発行不存在確認の訴えについては何ら規定するところがない。しかしながら、新株発行が無効であるにとどまらず、新株発行の実体が存在しないというべき場合であっても、新株発行の登記がされているなど何らかの外観があるために、新株発行の不存在を主張する者が訴訟によってその旨の確認を得る必要のある事態が生じ得ることは否定することができない。このような新株発行の不存在は、新株発行に関する瑕疵として無効原因以上のものであるともいうことができるから、新株発行の不存在についても、新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効のある判決をもってこれを確定する必要がある。したがって、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定する余地があり、この場合、新株発行無効の訴えに対比して出訴期間、原告適格等の訴訟要件が問題となるが、この訴えは少なくとも、新株発行無効の訴えと同様に、会社を被告としてのみ提起することが許されるものと解すべきである。
 これを本件について見ると、Xの本件新株発行不存在確認の訴えは、新株を引き受けた株主であるYを被告として提起したもので、会社以外の者を被告とするものであることが明らかであるから、不適法であるといわなければならない。」
 このように、平成9年判決は、「新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定する余地があ」る旨示唆する。しかし、右判決は、直接的には被告適格について判断を下したものである。しかも被告適格はYでなくAにあるとして却下の判決を下している。したがって、右示唆はあくまでも傍論にすぎない。平成9年判決をもって、最高裁が、新株発行不存在確認の訴えを明示的に肯定したとみるのは早計である。ただ、右判旨をみるかぎり、判例は新株発行不存在確認の訴え自体を否定する趣旨ではないようではある。
 ところで、本判決は、「新株発行の不存在についても、新株発行無効の訴えに準じて、その旨の確認の訴えを肯定するのが相当である」と判示する。しかし、本判決は、新株発行不存在確認の訴えに出訴期間の制限を認め、本件は出訴期間経過後の訴え提起であり不適法であると判示している。したがって、本判決の右判示部分も傍論にすぎない。
 おそらく、裁判実務上新株発行不存在確認の訴えは認められると思われるが、この点についての直接的な裁判例はまだ存在していないというべきである。今後の実務の集積が待たれる。

三.1. 平成9年判決の表現に倣い、「新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定する」べきだとすると、問題となるのは、出訴期間の有無である。新株発行無効の訴えには六ヶ月の出訴期間の制限がある。新株発行不存在確認の訴えについて、新株発行無効の訴えに「準じて」考えていくとするならば、出訴期間の制限についても同様に設けるべきか*8。この点は、すでに平成9年判決において問題点の指摘がなされたところであった。同判決の可部恒雄・千種秀夫裁判官の補足意見も断定は避けているものの、このような解釈に肯定的である。次のとおりである。
 「新株発行の不存在についても、新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効のある判決をもってこれを確定し得ることとする必要があることは、法廷意見の説示するとおりで、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定すべきであると考える。その場合、明文の規定がないにもかかわらず、新株発行無効の訴えに準じてこれを認めるのであるから、被告適格の点だけでなく、出訴期間、原告適格等の訴訟要件を始め、出訴期間経過後の措置、判決の効力等についても、可能な限り新株発行無効の訴えに準ずべきことはむしろ当然であろう。したがって、商法が法的安定性の見地から新株発行無効の訴えについて出訴期間を設けた趣旨に鑑みれば、出訴期間の制限なしに、何時までも新株発行不存在確認の訴えを独立して提起し得るものとすることには躊躇を覚える。その反面、新株発行不存在確認の訴えを必要とする実情に照らせば、右の出訴期間の経過後においても、新株発行の不存在を前提として株主権の不存在確認を求める等の別訴を提起することを妨げる理由も見出し難い。そして、そのような判決が確定したときは、登記等の新株発行の外観を除去するための方途も同時に考慮されなければならない。」

2. 本判決は、出訴期間の制限を認める理由として、(1).新株発行不存在確認の訴えは、新株発行無効の訴えに準じて認められること、(2).判決に対世効という強い効力があることを根拠にする。さらに、本判決は、括弧書きで補足して、出訴期間による制限をしても構わない理由として、@新株発行不存在確認の訴えには、無効事由が存在するにすぎないのに、出訴期間が経過しているため、発行手続等の瑕疵が著しく不存在と評価すべきであるなどとして提起されるものが少なくないこと、A出訴期間経過後であっても、新株発行の存否が前提となる訴訟において、その不存在を主張できること(ただし、その訴訟の判決に対世効はない。)をあげる。
 本判決のあげる(1).(2).Aの各理由は、いずれも平成九年判決の補足意見によりすでに指摘されている。その意味では、これらは特別目新しくはない。本判決の意義は、新株発行不存在確認の訴えに出訴期間の制限を認める右補足意見の立場を採用する旨明言したところにある。
 以下、右各理由について若干の検討を加える。まず(1).についてであるが、そもそも「準じて」ということの意味からして、新株発行不存在確認の訴えが新株発行無効の訴えと異なる存在であることを前提としている。だから、新株発行不存在確認の訴えが新株発行無効の訴えに準じて認められるとしても、本判決の立場と逆に、不存在確認の訴えに出訴期間の制限がないと解することも十分に可能である。したがって、(1).は必ずしも説得的な理由にはなりえないと考える。次に(2).についてであるが、これも出訴期間による制限を認める十分な根拠にはなりえないと考える。対世効という強い効力があるものの、出訴期間の制限がない訴訟類型も存在しうるからである。そのようなものの例として、現に株主総会決議不存在確認の訴え(商法252条)がある。
 更に、Aについてであるが、Aに指摘するような訴えが可能であることは異論がない。問題は、そのような対世効のない訴えだけで十分かというところにある。この問題は、@の理由付けに関わってくる。@は、新株発行不存在確認の訴えの中には、新株発行無効事由があるにすぎないのに、無効の訴えの出訴期間の制限をかいくぐるための便法として提起されてくるものが多い、という認識を前提とする。そして、右のような認識は、このような訴えを、出訴期間の制約により、ふるいにかけるべきであるという政策的配慮へとつながっていく。

3. 結局、新株発行不存在確認の訴えにつき出訴期間の制約を認めるかどうかは、@をどうみるかに集約される。すなわち、新株発行無効の訴えにおける出訴期間の制約をかいくぐるような不存在主張を、シャットアウトすべきか、すべきだとしたら、どのような方法で、どの程度すべきか、ということである。
 たしかに、@が指摘するとおり、新株発行無効の訴えが出訴期間の制限のために提起できないので、一種「便法」として利用される不存在主張が多いというのは事実であろう。しかし、もしも新株発行不存在確認の訴えについて無効の訴えと同様の出訴期間の制限を設けるとするならば、この訴えを事実上否定するに等しくなってしまう*9。むしろ、@の掲げるような「便法」としての利用は、新株発行不存在確認の訴えという制度として織込済みであると考えるべきではあるまいか。現に、株主総会決議不存在確認の訴えも、株主総会決議取消の訴えの出訴期間の制限をかいくぐる便法として用いられている点では、新株発行不存在確認の訴えにおけると全く同じである。私は、新株発行不存在確認の訴えにつき、出訴期間による制約はなされるべきでないと考える。ただ、このように、新株発行不存在確認の訴えにつき出訴期間の制約を設けないとすると、平成九年判決の事案のごとく、新株発行から何年もたってその瑕疵を争うことを認めることになり、取引の安全、会社組織の安全への配慮が懸念される。たしかに、無制限に何年たっても、右瑕疵の主張を認めることには抵抗もあろう。しかし、判例・学説が異論なく不存在であると認める新株発行の物理的・外形的事実がないのに、単に登記などの外形だけがある場合においては、そもそもの新株発行の実体がない以上、取引の安全、会社組織の安全への配慮は不要であるから、それでも構わないのではなかろうか*10。新株発行の事実が物理的・外形的には存在するものの、新株発行(行為)が存在すると法的に評価され得ない場合も、新株発行不存在であるとした場合にはじめて問題になることのように思われる*11。

4. 本件における不存在事由としてXらが主張するのは、本件各新株発行は、@代表取締役の不関与、A取締役会決議の不存在、B新株発行事項の通知の欠如、C新株発行条件の不公正などといったいくつもの手続的・実体的瑕疵を総合すると瑕疵の程度が著しいということである。本判決は、出訴期間の制限を認めて、請求を却下したため、これらの事項については判断がなされていない。しかし、判決文から察するに、本件は、「新株発行の物理的・外形的事実がないのに、単に登記などの外形だけがある場合」とはいいがたいように思われる。したがって、出訴期間による制約を認めなくても、Xらの主張を排斥することは可能である。
 本件は、典型的な閉鎖会社の支配権をめぐる紛争の事案である。B、X1X2がいずれもAの子であるところから、本件はAの相続をめぐる争いの一環として位置付けられるものと思われる。閉鎖会社の支配権争奪紛争の実態が、相続紛争であることは実務上よくみられるところである。本件で、出訴期間の制限を認めることは、このような紛争に対し門前払いすることを意味する。本件に限らず、一般に裁判所はこのような閉鎖会社・同族会社の承継、支配権争奪に対し介入することを避ける傾向があるように思われる。
 このようなこじれた紛争の抜本的解決の為にこそ、裁判制度はあるのだから、裁判所の積極的介入を期待したい。

四. 以上の検討から、私は、新株発行不存在確認の訴えには出訴期間による制限はなされるべきでないと考える。この点で本判決に反対する。
 なお、本件には直接関係しないが、次の二点を、今後の検討課題として指摘したい。
 まず第一に、新株発行不存在確認の訴えが、新株発行無効の訴えに「準じる」という前に、そもそも現行法における新株発行無効の訴えの出訴期間による制約が合理的かどうかが検討されるべきである。近時、支配権争奪のためになされた新株発行につき、取締役の責任を問う訴訟が提起されることがある*12。このような事案は、本来ならば新株発行の効力を正面から争うことにより解決されるべきである。それがそうならないことの一因として、現行の出訴期間が短すぎることがあると推測される*13。新株発行無効制度にこのような制度的問題があるとすれば、「安全弁」として新株発行不存在確認の訴えの機能すべき領域を確保すべきということになる。
 第二に、本件に典型的にみられるように、裁判例・学説は、一般に支配権争奪のためになされる新株発行につき、できる限り取引の安全を図ろうとする。しかし、支配権争奪のために新株発行がなされるのは、多くは閉鎖会社においてである。そもそも、このような閉鎖会社において、取引の安全を図ることは本当に必要であろうか。かえって、取引の安全を強調することで、「やった者勝ち」「勝てば官軍」という結果となり、真の救済が疎かになってしまうのではないか*14。閉鎖会社における支配権争奪のための新株発行に関し、今一度検討されるべきであろう。



*1平成9年判決の評釈としては、拙稿・本誌10巻167頁以下及びそこに引用されている文献を参照されたい。
*2ただし、旧法下のものである。
*3本判決の評釈として、坂本延夫・金判765号42頁、川島いづみ・税経通信42巻5号252頁、砂田太士・法律のひろば41巻4号(昭和63)年67頁、瀬谷ゆり子「新株発行の瑕疵と不存在確認の訴え−最近の判例の検討を通じて−」京都学園大学論集17巻3号(昭和63年)93頁、庄子良男・判タ975号195頁
*4本判決の評釈として、近藤弘二・平成4年重判122頁
*5登記のほかには、偽造株券の発行、新株発行について虚偽の記載をした計算書類の備置(商法282条)等がありうる。平成9年判決のコメント(判時1592号130頁)参照
*6菱田政宏「新株発行と瑕疵」石井追悼『商事法の諸問題』(昭和49年)410頁、坂田桂三『現代会社法(第4版)』(平成11年)567頁
*7最高裁昭和33年10月3日判決(民集12巻14号3053頁)、最高裁昭和38年8月8日判決(民集17巻6号823頁)、最高裁昭和45年7月9日判決(民集24巻7号755頁)など多数
*8ただし、無効の場合と異なり、不存在の場合、そもそも新株発行の外形的・物理的事実がないのだから、出訴期間の起算点は、新株発行の日ではなく、登記・偽造株券の発行など外観の生じた日ということになろう。この点については、平成9年判決のコメント(判時1592号131頁)を参照。
*9尾崎安央・判時1606号219頁は、出訴期間の制限は、この訴えについては背理であると指摘される。
*10尾崎・前掲評釈220〜221頁
*11尾崎・前掲評釈221頁
*12例えば、最高裁平成9年9月9日判決(判タ955号145頁)
*13中村信男「特定の株主に対する招集通知の欠訣と取締役の対第三者責任」判タ975号(平成10年)155頁
*14坂田桂三=松嶋隆弘・日本法学61巻2号216頁参照
Note